値上げの理由を聞けば、事情は分かる。それでも、家計の予算が増えるわけではありません。好きな商品を残すために別の買い物を削る人もいれば、いつもの商品を安いものへ切り替える人もいます。
企業から見ると「値上げ後も買ってくれた顧客」でも、顧客から見ると、何かを我慢して買い続けているのかもしれません。値上げへの対応を考えるには、説明の仕方だけでなく、消費者が何を削り、何を残しているかを見ることが手がかりになります。
この記事では、野村総合研究所(NRI)の食料品調査で買い方の変化を確認し、包装変更と内容量変更の事例から、企業と顧客の「残したい価値」がずれる場面を考えます。
値上げで消費者の購買行動はどう変わる?NRI調査の結果
安い商品への乗り換え41.7%、同じ商品を買い続ける人22.1%
NRIの調査は、2026年7月に関東1都6県の15~69歳、2,988人を対象に実施したインターネット調査です。普段買う食料品が値上げされた場合の行動では、安い別メーカーの商品への乗り換えが41.7%でした。
同じ商品の割安な大容量パックを選ぶ人は29.2%、そのまま同じ商品を買い続ける人は22.1%。その食品自体の購入を控える・やめる人は7.0%でした。

出典:NRIインサイトシグナル調査。図は当サイトが作成。全国全体や特定ブランドの実売上を表すデータではありません。
ここで起きているのは、単純な「買う・買わない」の二択ではありません。商品を替える、買う単位を替える、その食品から離れるという、異なる調整です。
例えば、大容量パックへの変更ならブランドとの関係は残りますが、毎回の支払額や保管場所の負担は変わり得ます。安い別商品へ移った人も、食品そのものが不要になったとは限りません。メーカーへの需要が減っても、食卓の需要は残る場合があります。
「5~10%未満まで」が50.7%でも、値上げの安全圏とはいえない
食料品の値上げ許容幅では「5~10%未満」が50.7%で最も多く、値上げを一切許容しない回答は16.7%でした。
これは、回答者が考える許容幅です。「10%未満なら客離れしない」という実験結果ではありません。実際の選択は、代替品、購入頻度、家計、商品へのこだわりにも左右されるでしょう。
同じ商品を買い続ける22.1%についても、理由が愛着なのか、代替品がないのか、他の出費を削ったのかは、この設問だけでは分かりません。継続購入という行動の裏に、積極的な支持と消極的な受け入れが混在している可能性があります。
ステルス値上げと包装の簡素化は、どう受け止められるのか
中身を減らす対応より、包装を簡素にして価格を保つ対応が選ばれた
同じ調査では、加工食品の価格上昇に際して、どの企業対応に納得できるかも尋ねています。食料品全般の購買行動とは、対象と質問が異なります。
| 加工食品で納得できる対応(主な回答) | 割合 |
|---|---|
| 包装を極力シンプルにして価格を据え置く | 36.5% |
| 商品は特段変えず、理由を説明した上で値上げする | 24.7% |
| 中身の品質を良くした上で値上げする | 9.7% |
| 包装や品質を変えず、内容量を減らして価格を据え置く | 9.2% |
| どのような対応・理由でも許容しない | 9.9% |
出典:NRIインサイトシグナル調査。7つの選択肢のうち主な5項目を掲載しています。記事本文の数値に基づきます。
内容量を減らして販売価格を維持する方法は、一般にステルス値上げとも呼ばれます。ただ、内容量を表示しているか、変更をどの程度周知したかは個別に確認する必要があります。
この結果では、包装の簡素化と内容量の減少が、同じ「価格据え置き」でも違って受け止められています。少なくとも、消費者にとって削ってよい部分と、削られたくない部分が同じではないと考える手がかりになります。
また、理由の説明を選んだ24.7%は、説明さえすれば全員が納得し、購入を続けるという意味でもありません。価格改定の背景が理解できても、予算の都合で別の商品を選ぶことはあり得ます。
安さ以外に残したい価値も、人によって違う
生鮮食品で少し高くても特定の商品を選ぶ理由では、国産・地元産への安心感が29.8%、形が不ぞろいでもお得な訳あり品が26.5%、鮮度が良く長持ちすることが15.6%でした。一方、理由を気にせず最も安いものを選ぶ回答は18.2%です。
安さを重視しながらも、安心感、食材を無駄にしないこと、品質に対する割安感などを残したい人がいます。ただし、これは生鮮食品の設問であり、その割合を菓子やソーセージの支持率として使うことはできません。
企業が伝えたい価値と、顧客が買う理由を揃えるという問題は、購買意欲と広告メッセージの関係にも通じます。値上げ局面では、そのずれが金銭的な不利益と一緒に見えるため、より敏感に受け止められやすいのではないでしょうか。
ポテトチップスの包装変更とシャウエッセンの内容量変更から考える
カルビーは印刷色を減らし、品質を維持する対応を示した
カルビーは2026年5月、中東情勢に伴う原材料の調達不安定化を受け、ポテトチップスなど14品の包装に使う印刷インクを2色へ変更すると発表しました。公式発表では、安定供給を優先するための当面の対応で、品質への影響はないとしています。
これは値下げ策や、包装簡素化によるコスト削減効果を検証した事例ではありません。それでも、何を変えて何を保つかを考える例になります。見た目が変わっても、中身の品質を保つという説明は、食べるために買う顧客にとって理解しやすいでしょう。
パッケージの変化そのものを楽しむ余地もあります。ただし、そのことから販売が成功した、全消費者に支持されたとまでは評価できません。
シャウエッセンの「1本の満足感」は、袋全体の価値と一致するか
日本ハムは2026年10月5日、シャウエッセンのリニューアルを発表しました。1本あたりの重量を増やし、食感や食べ応えを訴求する一方、主力商品の内容量は117g×2パックから107g×2パックへ減ります。袋全体では約8.5%の減量です。FNNの報道では、価格はそのままとされ、実質的な値上げに当たります。
公式発表で示した比較調査は、同社従業員75人によるものです。食感や満足感の評価は、消費者全体の評価や販売実績とは区別して読む必要があります。
ここで考えたいのは、1本の満足感を高めることと、家庭が袋に期待する価値が、必ずしも同じではないという点です。例えば、家族のお弁当に使う人なら、食感に加えて「何人分に使えるか」「何回買い足すか」も判断材料になりそうです。これは利用場面から考えた仮説であり、同商品への反応を測定した結果ではありません。
企業の改善が顧客の不利益を埋めているかは、改善した項目だけを測っても見えにくい場合があります。評価してほしい部分と、顧客が失ったと感じる部分を、同じ土俵に載せられているかが論点です。
値上げ後の客離れを考えるなら、何を確認するとよいか
顧客が残すものと、諦めるものを一緒に聞く
「値上げに納得できますか」だけでは、次の購入で何が変わるかを捉えきれません。少人数の聞き取りでも、次のように買い方へ近づけると、商品や説明を見直す材料が得られそうです。
- 同じ予算で買い物をするとしたら、どの商品を残し、どれを替えるか。
- 内容量・味・包装・手間のうち、変わると困るものは何か。
- 今も買っている理由は、気に入っているからか、替えがないからか。
販売データでも、売上金額だけでは数量減を見落とすことがあります。数量、購入頻度、大容量や別商品の動きなど、自社で確認できる範囲から合わせて見る方法が考えられます。
顧客の予算と、企業の採算の両方に制約がある
値上げを避ければすべて解決するわけでもありません。企業が費用の増加を吸収し続ければ、雇用や事業継続へ影響する場合があります。最低賃金と企業の採算や、取引先との価格交渉で末端へ負担が残る問題は、その企業側の制約を扱っています。
ただ、企業の事情を説明しても、顧客の使えるお金は増えません。好きだから、応援したいからという気持ちが継続購入を支えていても、その許容度に頼り続けられるとは限らないでしょう。
値上げ・ステルス値上げと客離れについてのFAQ
値上げの理由を説明すれば、客離れを防げますか?
説明は理解を助けますが、購買継続を保証しません。家計や代替品の条件が変わらなければ、理解した上で安い商品へ移ることもあり得ます。
値上げと内容量の削減では、どちらが好まれますか?
一律にはいえません。今回の加工食品調査では、理由を説明する値上げを選んだ割合は24.7%、内容量を減らして価格を保つ対応は9.2%でした。個々の商品では、使い方や顧客層を確認する余地があります。
買い続ける人がいるなら、商品価値は維持できているのでしょうか?
継続購入だけでは判断しきれません。愛着で選ぶ人も、代わりがなく買う人も、他の出費を削って残す人も考えられるためです。
値上げ後に選ばれる理由を、顧客の暮らしから捉える
今回の調査から見えるのは、消費者が値上げの中で商品や買い方を選び直していることです。企業が品質を高めたつもりでも、顧客が残したかった価値と違えば、変更を好意的に受け止めてもらえない可能性があります。
「なぜ高くなるか」に加えて、「その商品を残すために、顧客は何を諦めているか」。そこまで見えると、変える部分と保つ部分を、顧客の生活に近いところから考えやすくなりそうです。
参考資料
- NRI「食料品の値上げに対する生活者の意識と行動」:2026年7月調査。購買行動、許容幅、加工食品の対応、生鮮食品の選択理由。
- カルビー「中東情勢の影響による一部商品仕様見直しのお知らせ」:2026年5月12日。包装の印刷色変更と品質への影響。
- 日本ハム「シャウエッセン」リニューアル発表:2026年10月5日。商品仕様、従業員による比較調査。
- FNN「シャウエッセン」実質値上げ:2026年10月5日。内容量変更と価格据え置きの報道。
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