「人手が足りないというより、その条件で働きたい人がいないのではないか」。人手不足倒産のニュースを読むと、そう感じる人もいるでしょう。企業はこれ以上の賃金を払えないと考えていても、働く側には、よりよい条件の職場を選ぶ理由があります。
一方で、企業に仕事の依頼があっても、人がいなければ受注できず、売上が減って事業を続けられなくなる場合があります。賃金を上げて確保しようとすれば、今度は採算が厳しくなることもあります。
人手不足倒産を考えるには、採用人数だけでなく、働いてもらえる条件と、その条件で成り立つ事業採算を合わせて見ることが手がかりになります。まず、最新の倒産データと発生の仕組みを確認します。
人手不足倒産とは?採用難・退職・人件費高騰による倒産
人が集まらない場合だけでなく、退職や人件費の増加も含む
帝国データバンク(TDB)の人手不足倒産調査は、従業員の採用難、退職、人件費高騰などによって倒産した企業を集計しています。対象は負債1,000万円以上の法的整理です。
| 主な類型 | 事業継続へ影響する場面 |
|---|---|
| 採用難 | 求める人材を確保できず、受注や営業の体制を維持できない |
| 従業員退職 | 在籍者の退職によって、業務に必要な人員や技能が失われる |
| 人件費高騰 | 賃上げなどの費用増を吸収できず、収益や資金繰りが悪化する |
したがって、人手不足倒産は「求人を出しても誰も来なかった倒産」だけを指しません。反対に、人手が足りないすべての企業がこの集計に入るわけでもありません。廃業や小規模な事業停止を含む、社会全体の損失をそのまま表す数字とは区別する必要があります。
人手不足倒産は増えている?2026年度上半期は225件
同じ期間で比較すると、4年連続で上半期の最多を更新
TDBが2026年10月7日に公表した調査では、2026年度上半期、つまり4~9月の人手不足倒産は225件でした。前年同期の214件から11件、約5.1%増え、上半期として4年連続の最多更新となりました。
| 集計期間 | 人手不足倒産の件数 |
|---|---|
| 2025年度上半期(2025年4~9月) | 214件 |
| 2026年度上半期(2026年4~9月) | 225件 |
年度全体で見ると、2025年度調査では、2025年4月~2026年3月が441件。前年度の350件から26.0%増え、年度では3年連続で過去最多でした。
上半期の225件と通年の441件は、集計期間が異なります。数字の大小で増減を判断したり、上半期を単純に2倍して年度の確定値としたりはできません。同じ期間で比べても高水準が続いている、というのが今回の確認点です。
建設業とサービス業で、どのような問題が起きているか
2026年度上半期は、建設業が70件で前年同期から17件増、サービス業が63件で6件増でした。
建設業では、人数だけでなく、現場を管理できる人や資格を持つ人が欠けると、仕事を受けられなくなる場合があります。今回の調査で紹介された静岡県の屋根工事業者は、厳しい収益環境に加え、現場を取りまとめる社員の独立と、必要な資格を持つ社員の退職が重なり、営業が困難になって自己破産を申し立てています。
サービス業でも、業務を担う人が確保できなければ、営業時間や提供量を維持するのは難しくなるでしょう。元から収益に余裕がない企業では、人の退出が事業を続けられなくなるきっかけになり得ます。
ただし、業種ごとの件数は、その業種の企業数に対する倒産率ではありません。件数が多いことと、個々の企業が倒産する確率が高いことは分けて読む必要があります。
人手不足で倒産するのはなぜか――仕事と採算が崩れる二つの経路
人が減り、受注や業務の継続が難しくなる
2025年度のTDB調査では、従業員や経営幹部などの退職を原因とする倒産が118件でした。年度では初めて100件を超え、4年連続で増えています。
企業例では、橋梁工事を手がけたライブディック(宮城県、2025年9月破産)が紹介されています。従業員の退職が相次ぎ、例年どおりの工事を受注できなくなり、事業継続を断念したとされています。
仕事の需要が残っていても、それを実行する人がいなければ売上になりません。受注を断る、工期を延ばす、外注費が増えるといった変化が、固定費や支払いとの関係で資金繰りを圧迫することがあります。
残った従業員が穴を埋め続ければ負担も偏りやすくなります。管理職のなり手不足で扱った、責任と条件の釣り合いも、退職を防ぐ環境を考える上で関連する論点です。
人を確保できても、人件費を吸収できない
もう一つは、採用や定着のために費用を増やした結果、収益が維持できなくなる経路です。
2025年度の調査では、特に大型車の免許などを持つ人材を必要とする建設・運輸分野で、採用難や人件費高騰が課題として挙げられています。条件を改善すること自体は働く側にとって望ましくても、売上や生産性が同じままなら、企業の利益は圧迫されます。

図は記事の説明を整理した概念図であり、各経路の発生割合を示すものではありません。
「採用できれば解決する」と考えると、採用した後の採算を見落とすおそれがあります。反対に、今の費用のまま利益を確保しようとすれば、働く人が集まらない状態が続く場合があります。
「安く働く人がいないだけ」という見方と、企業側の制約
働く側は、企業の採算を守るために条件を受け入れるとは限らない
給与、拘束時間、休日、仕事内容、責任の重さ。働く人が条件を比べ、別の会社を選ぶことには理由があります。企業が「この賃金が限界」と説明しても、それだけでその職場を選ぶ魅力が増えるわけではありません。
企業の人手不足を、働く人の意欲や忍耐の問題へ置き換えても、採用条件の不一致は残ります。働く側が受け入れにくい条件でしか事業が成り立たないなら、雇う人数の前に、事業の収益構造を考える余地があります。
ただし、低賃金を好んで選んでいる企業ばかりともいえない
企業に十分な余力があるのに条件を改善しない場合と、取引価格や稼働の制約で余力を作れない場合は、分けて捉えたいところです。
また、専門技能、資格、地域、勤務時間帯などの条件が重なると、賃上げだけで必要な人をすぐ確保できるとは限りません。人手不足倒産のすべてを「安く雇おうとした結果」と説明するのも、個々の事情を落としてしまいます。
重要なのは、企業が払える条件と、働く人が選びたい条件の間にある差を、どこから縮められるかでしょう。
解決の起点は事業採算――値上げが難しい取引構造もある
賃金を上げ続けられる売上と利益を作れるか
仕事の単価を上げる、付加価値を高める、工程を見直す、採算の合わない仕事を減らす。人件費の増加を支えるには、こうした事業側の変化も関わります。
例えば、同じ人数でこなせる仕事が増えれば、条件を改善する余地が生まれるかもしれません。一方、設備投資やシステム導入には費用と時間がかかり、すべての仕事を短期間で省力化できるわけではありません。
最低賃金引き上げと企業の採算では、賃金の上昇を経営の収益構造と合わせて考える論点を扱っています。
発注側にも値上げを受け入れる事情が必要になる
受注側が人件費を理由に値上げを求めても、発注側には予算や調達価格の説明責任があります。今まで安く発注できていた仕事を高く買うことには、社内で説明が必要になる場合があります。
そのため、双方が人手不足を問題だと認識しても、価格へ反映する段階で止まることがあります。立場の弱い受注側が費用を吸収し続ければ、雇用条件を改善する原資が残りにくくなる構図です。
制度が変わっても末端への負担が残る問題は、取適法と価格交渉・負担の構造で詳しく扱っています。
引き受ける企業が減り、供給できる相手が限られてから価格が上がるという展開も考えられます。ただ、それまでに廃業や倒産が進むと、技能や供給能力が失われます。供給が減れば必ず適正価格へ落ち着くとも限らず、価格が動くまで待つ方法にも損失があります。
人手不足倒産についてのFAQ
人手不足なのに、なぜ賃金を上げないのでしょうか?
価格転嫁や収益改善が進まず、原資を確保できない場合があります。一方、条件を見直す余地がある企業も考えられるため、各社の利益、取引条件、採用要件を確認する必要があります。
売上があっても、人手不足で倒産することはありますか?
あります。人が減って仕事を実行できなくなる場合や、人を確保する費用が増えて採算が崩れる場合があります。売上の存在だけで、利益や資金繰りの安定は判断できません。
採用活動を強化すれば、人手不足倒産は防げますか?
採用が役立つ企業はありますが、採用後も支払える条件か、定着できる環境かが関わります。取引単価や業務量の問題が残れば、募集の強化だけでは解消しにくい場合があります。
人手不足倒産が減るには、何が変わる必要があるか
最新の件数は、人手不足倒産が高水準で続いていることを示しています。ただ、今後の件数は景気、需要、投資、賃金、取引価格などによって変わります。
働く人が選べる条件を整え、それを継続して支払える採算を作る。その両方が進まない企業では、採用難や費用増が事業継続を脅かす状態が続く可能性があります。企業の採用努力だけでは動かしにくい取引条件もあるため、短期間で一律に解消する問題とは捉えにくいでしょう。
改善を見る際は、倒産件数に加えて、人件費の増加を価格や生産性で吸収できているか、必要な人材が定着しているかが判断材料になりそうです。人が増えたことと、その人たちが働き続けられる事業になったことを、合わせて確認する視点が残ります。
参考資料
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2026年度上半期)」:2026年10月7日。集計定義、4~9月の件数、業種別の動向。
- 帝国データバンク「人手不足倒産の動向調査(2025年度)」:2026年4月9日。年度件数、従業員退職型、企業事例。
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