「佐渡島」は、「さどしま」でしょうか。それとも「さどがしま」でしょうか。
地図や旅行案内で見かける同じ島なのに、読み方が違う。さらに世界遺産の「佐渡島の金山」は「さどのきんざん」と読みます。「島」はどこへ行ったのだろう、と気になった人もいるかもしれません。
「さどしま」と「さどがしま」は、どちらも公的資料に登場する呼び方です。 国土地理院の地名集や面積調では「さどしま」、国土交通省の離島紹介では「さどがしま」が使われています。一つを正解にして、もう一つを間違いにすると、実際の使われ方が説明できません。
名前をたどると、地図を作るための呼称、文学に残された呼称、旅先として親しまれる呼称が重なっていることが分かります。この記事では、読み方を先に整理したうえで、佐渡という地名の由来や「ヶ」の働き、文学と観光との関係を見ていきます。
佐渡島の読み方は?「さどしま」と「さどがしま」の使い分け
佐渡島の読み方を確認するときは、どの資料や名称について話しているかを見ると分かりやすくなります。

「さどしま」は、国土地理院が地名や島の面積を整理する資料で確認できます。地理の資料に読み仮名を付けるなら、これが明確な根拠になります。
一方の「さどがしま」も、単に誰かが読み間違えて広まった名前ではありません。国土交通省の離島紹介でも使われ、文学や観光の世界にも用例があります。会話で「さどがしま」と呼ぶ人を、「地図と違うから間違い」と訂正するような関係ではないのです。
「さどじま」は現在の主流なのか
「さどじま」という読み方を耳にして、昔は「さどがしま」、今は「さどじま」へ変わったのだろうか、と考える人もいるでしょう。
ただし、国土地理院の資料にあるのは、濁らない「さどしま」です。「公的な地名の読みが『さどじま』へ変更された」という説明にはなりません。
また、時代別にどの呼び方が何割使われたのかを示す調査は、今回確認した資料にはありません。読み方の変化を一本の年表にするより、「同じ島に複数の呼び方があり、資料や場面によって使われている」と理解するほうが実態に合っています。
旅行の話なら「佐渡へ行く」という言い方も自然です。迷いやすいのは、地域を指すときと、地図上の島名を読み上げるとき、特定の施設・世界遺産名を紹介するときで、求められる表記が少しずつ違うためです。
「さどしま」はどこから来た?海図と地名の標準化
佐渡市の「『佐渡』に関するQ&A」は、「さどしま」という呼び方を、近代の海図や水路誌の記録から説明しています。
市の資料によると、1886年の『寰瀛水路誌』では英語の「Sado island」、1891年の海図では「佐渡島 SADO ISLAND」という表記が使われました。さらに1897年の『日本水路誌第四巻』では、「佐渡島」に「Sado shima」とローマ字が付けられています。
ここには、島の名前を地図や航海用の資料でどう示すか、という実務があります。土地の人や旅人が口にする名前をすべて一つに変えるためではなく、位置と名称を結び付け、資料の中で同じ対象を識別できるようにするための表記です。
この記録があるため、「さどしま」を最近になって登場した新しい読み方として扱うこともできません。少なくとも明治期の資料までさかのぼれる呼称です。
地図の標準的な表記と、地域で親しまれる言い方は、役割が違います。現在の資料で「さどしま」と「さどがしま」が並存することも、その違いを踏まえると理解しやすくなります。
佐渡という名前の由来は?「狭門」と「雑太郡」の説
「佐渡」の地名の由来には諸説があります。佐渡市の歴史資料は、海路の狭さを表す「狭門(さど)」に結び付ける説と、古代の「雑太郡(さわたぐん)」に関係する説を挙げています。
「狭門」説は、海を隔てた土地との位置関係から名前を考えるものです。「雑太郡」説は、島内にあった地域の名称と「佐渡」との関係に注目します。同じ地名の由来でも、前者は地形や海路、後者は地域名の歴史を手掛かりにしているわけです。
どちらか一つを確定した語源として紹介するより、地形から説明する説と、古い地域名から説明する説があると押さえると、違いがよく分かります。「佐」が「助ける」、「渡」が「海を渡る」という漢字だから、という連想だけで命名の経緯を決めることはできません。
『古事記』には「佐度島」が登場する
佐渡という名前の古さを示す資料として、『古事記』があります。国生み神話では、大八島を構成する島の一つとして「佐度島」が登場します。現在の「渡」ではなく、「度」の字が使われています。
佐渡市の歴史資料では、『古事記』では7番目、『日本書紀』では「億岐州」と「佐度州」が双子として5番目に登場すると整理されています。
これは、古い文献の中ですでに佐渡が一つの島として認識され、名前を記されていたことを知る手掛かりです。一方、神話に登場する順番は、地質学的に島ができた順番とは別の話です。
また、古い文献の漢字表記だけから、現代の「さどしま」「さどがしま」のどちらが唯一の正解かを決めることもできません。地名そのものの歴史と、時代ごとの表記・読み方を分けて見ると、名前の変遷が整理できます。
佐渡国から佐渡市へ――名前とともに見る島の歴史
佐渡は、古代の国の区分では「佐渡国」と呼ばれました。その後の歴史では、順徳上皇や日蓮、世阿弥が流された土地としても知られています。「流人の島」というイメージは、こうした歴史と結び付いています。
一方で、金銀を産出する島としての歴史もあります。江戸時代には幕府の管理のもとで鉱山開発が進み、採掘や金銀の生産に関わる人々が集まりました。佐渡を知るときは、流刑の歴史だけでなく、鉱山と人の往来がつくった地域の姿も大切です。
現代の自治体としての佐渡市は、2004年3月、島内の10市町村が合併して誕生しました。「佐渡島」は島、「佐渡市」は自治体、「佐渡国」は歴史上の国名です。同じ佐渡を指す場面が多くても、言葉が表している対象は異なります。
佐渡ヶ島の「ヶ」はなぜ「が」と読むのか
「佐渡ヶ島」の「ヶ」は、ここでは「が」と読みます。「さどけしま」ではありません。
この「が」は、言葉と言葉をつなぐ働きをしています。「佐渡が島」と書くと、その構造が見えやすくなります。地名には「関ヶ原」「茅ヶ崎」など、同じように「ヶ」を「が」と読む例があります。
小さな「ヶ」は見た目こそ片仮名の「ケ」に似ていますが、漢字の「箇」や「个」の略字に由来する表記として説明されます。地名では「が」、数量を表す「一ヶ月」では「か」と読むなど、使われる言葉によって読みが変わります。
ここで区別したいのは、文字の由来と、その言葉の中での働きです。「ヶ」の字形が「箇」などに由来するからといって、「佐渡ヶ島」が島の数を数えているわけではありません。地名の中では「が」を表すために使われています。
「ヶ」が付いた「佐渡ヶ島」と、ひらがなを使う「佐渡が島」は、読み方が分かりやすい表記です。一方、「佐渡島」と書かれていても「さどがしま」と読まれる場合があります。漢字を一字ずつ読めば、地名の読みがすべて決まるわけではないのです。
「さどがしま」は文学にも残っている
「さどがしま」という呼び方は、観光パンフレットだけでなく、佐渡を訪れた文人の作品にも残っています。具体的な本を読むと、いつの時代に、どのような表記が使われていたかを確かめられます。
幸田露伴『易心後語』に見える「佐渡が島」
幸田露伴の『枕頭山水』(1893年刊)に収められた『易心後語』には、佐渡を旅した記述があります。国立国会図書館の原本では、本文73ページに「佐渡が島」という表記が確認できます。
該当箇所は、雨で足止めされた新町での滞在や、寄席の張り紙に触れた場面です。島名だけが辞書のように載っているのではなく、宿や天候、人々の暮らしを描く文章の中で使われています。
この用例から分かるのは、明治期の文章ですでに「佐渡が島」という表記が存在していたことです。「さどがしま」は、近年の観光宣伝のために初めて作られた呼び名ではありません。
長塚節は作品名を『佐渡が島』とした
長塚節には、まさに『佐渡が島』という作品があります。高浜虚子の『新写生文』(1908年刊)に収められた原本でも、本文91ページの作品見出しで確認できます。
作品は雨の佐渡を歩く場面から始まり、真野の入江、小木へ向かう道、海辺の花、宿でのやり取りなどが描かれます。旅先を「名所の一覧」として見るのではなく、天候や風景、人との出会いを通じて感じ取る文章です。
作品名に「佐渡が島」が使われているため、当時の表記を知る例としても明快です。青空文庫でも本文を読むことができ、今の観光地図と見比べながら、作品に登場する土地をたどる楽しみがあります。
太宰治『佐渡』では、島への期待と実際の旅が描かれる
太宰治の『佐渡』は、1941年1月に発表された作品です。題名は「佐渡」ですが、本文には「佐渡ヶ島」の表記も登場します。新潟から船に乗り、島へ向かう不安や、相川を歩くときの気持ちが描かれています。
また、『みみずく通信』にも、翌日晴れたら佐渡ヶ島へ行くつもりだという記述があります。同じ作家でも、作品名や文章の流れに応じて「佐渡」と「佐渡ヶ島」を使っています。
太宰の作品で興味深いのは、旅に出る前に抱いた島のイメージと、実際に訪ねた土地や人々との間に揺れがあることです。旅行者は地図上の場所だけを目指すのではなく、聞いた話や読んだ文章から思い描いた場所へ向かう。その感覚を読み取れます。
こうした作品は、佐渡が文学の中でどう表現されたかを示す具体例です。ただし、作品に用例があることと、その作品が観光上の呼称採用を直接決めたことは別です。呼び方の歴史を知る資料として楽しみながら、そこから確認できる範囲を押さえるとよさそうです。
地図と観光では、名前に求められる役割が違う
地図では、同じ場所を正確に識別できることが重要です。観光では、それに加えて、どんな場所なのかが伝わり、名前を覚えてもらえることにも意味があります。
佐渡市のQ&Aは、古い観光パンフレットでは「佐渡」が多く、昭和40年ごろから「佐渡ヶ島」という表現が使われるようになったと説明しています。文人の呼び方や、観光地としてのイメージづくりとの関係についても、市の資料は一つの見方を示しています。
ここは「文学作品が人気になったから、行政がこの読み方に統一した」と単純化するより、文芸の中の表現、観光の表現、公的資料の表記をそれぞれ確かめると、話の面白さが残ります。言葉が使われる場所は一つではなく、それぞれの使われ方が地域のイメージに重なっていくからです。
近年の例として、本サイトの小学生が佐渡ヶ島観光を動かす理由では、動画で親しまれた掛け声が、子どもの「佐渡へ行きたい」という気持ちにつながった事例を扱っています。名前を知っていることから、その土地に親しみを感じることへ。さらに、家族で訪ねたいと思うことへ。観光では、呼び名が人の気持ちや行動と結び付く場面もあります。
世界遺産「佐渡島の金山」は「さどのきんざん」
世界遺産の「佐渡島の金山」は、「さどのきんざん」と読みます。「さどしまのきんざん」「さどがしまのきんざん」ではありません。
新潟県の説明によると、世界遺産としての名称「Sado Island Gold Mines」の日本語表記で、呼びやすく、覚えやすい名前にするため、「佐渡島」を「さど」と読むことにしたとされています。
これは、島そのものの読み方を一律に「さど」へ変更したという話ではありません。世界遺産の名前として、どう呼ぶかを決めた例です。
また、「佐渡金山」と「佐渡島の金山」も、同じ字面の別表記というだけではありません。「史跡佐渡金山」は相川にある観光施設の名称として使われ、世界遺産の「佐渡島の金山」は、西三川砂金山と相川鶴子金銀山から成ります。観光案内を作るときは、読み方だけでなく、どの範囲を紹介しているかも合わせると、訪問者に伝わりやすくなります。
同じ島に複数の読み方がある例――琵琶湖の沖島
同じ島の名前に複数の読み方が見られるのは、佐渡だけではありません。琵琶湖にある沖島も、その例です。
近江八幡市の観光案内では「沖島(おきしま)」と紹介されています。一方、国土地理院の全国都道府県市区町村別面積調では、同じ滋賀県近江八幡市の島が「沖島 おきのしま」と記載されています。
ここでも、「島」という漢字を前の語へそのまま付けて読む形と、間に「の」を入れる形が並んでいます。読みの違いを見つけたとき、すぐ別の島だと考えたり、片方を誤記と決めたりせず、所在地と資料の目的を見ると整理できます。
もちろん、全国には「沖ノ島」「沖の島」など似た名前の島もあります。ここで比較しているのは、あくまで琵琶湖にある同じ沖島の読み方です。
佐渡の名前は「正解を一つ」にすると見えなくなる
佐渡島は、地理資料で「さどしま」、離島紹介や慣用的な呼び方で「さどがしま」。そして世界遺産の「佐渡島の金山」は「さどのきんざん」です。まずこの区別を覚えておくと、旅行案内やニュースを読むときにも迷いにくくなります。
その背景には、古くからの地名、近代の海図、文学の表現、観光の呼称がありました。一つの呼び方がほかを完全に置き換えたと考えるより、それぞれが何を伝えるために使われてきたかを見ると、佐渡の名前をより深く理解できます。
地域の情報を発信する側にも、この視点は役立ちます。地図や制度の正式名称は正確に扱い、親しまれている呼び方は背景とともに伝える。表記を整えることと、その土地の言葉の豊かさを消さないことは両立できます。
名前に興味を持ったら、次は、文学に登場する町や海岸を地図で探してみるのも楽しみです。旅先としての具体的な魅力は、佐渡の海鮮と冬の旬を調べた記事でも紹介しています。
参考資料
- 国土地理院『地名集日本』:佐渡島の読み「さどしま」。
- 国土地理院『全国都道府県市区町村別面積調』2025年7月1日時点:本文82ページの佐渡島・沖島の表記と読み。
- 国土交通省「離島の概要・佐渡島」:「佐渡島(さどがしま)」の使用例。本文では交通情報や面積値を参照していません。
- 佐渡市「『佐渡』に関するQ&A」:掲載紙面23ページ、PDF1ページ。水路誌・海図の表記、観光資料での呼称についての説明。
- 佐渡市『歴史的風致維持向上計画』第1章:本文19ページ(PDF13ページ)からの歴史的環境。地名由来の諸説、古事記の「佐度島」、島の歴史。
- 佐渡市「佐渡市の紹介」:2004年の10市町村合併と市域。
- 日本漢字能力検定協会・漢字カフェ「新聞漢字あれこれ174 『ヶ』」:「ヶ」の由来、地名と数量表現での使用。
- 幸田露伴『枕頭山水』原本:1893年刊、『易心後語』本文73ページ(37コマ)で「佐渡が島」の表記を確認。
- 高浜虚子『新写生文』原本:1908年刊、長塚節『佐渡が島』本文91ページ(51コマ)。青空文庫の本文でも読むことができます。
- 太宰治『佐渡』青空文庫、『みみずく通信』:旅の描写と「佐渡ヶ島」の用例。
- 新潟県「佐渡島の金山ってどんな所?」:世界遺産名の読みと命名理由、名称ごとの対象。
- 近江八幡市観光公式サイト「琵琶湖に浮かぶ離島 沖島でのんびり島時間」:「沖島(おきしま)」の使用例。
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