出社回帰はなぜ進む?生産性の研究とハイブリッド勤務

出社に戻る。成果は上がる?。成果・定着・事業継続で考える 組織・人材設計

「リモートではコミュニケーションが足りないので、出社に戻す」。企業が出社回帰を説明するとき、よく聞く理由です。対面で話す利点はありますが、売上や利益が伸びない原因まで、働く場所で説明できるのでしょうか。

日本ではテレワーク実施率が緩やかに下がる一方、実施者の継続希望は8割を超えています。海外の研究には、出社命令で企業業績の改善が確認できなかった分析や、週2日の在宅勤務で業績評価を落とさず離職を減らした実験もあります。

出社かリモートかという二択ではなく、成果、生活、採用・定着、事業継続を合わせて考えることが、ハイブリッド勤務を選ぶ理由になります。

出社回帰とは?日本のテレワークはどこまで減っているか

出社回帰は、在宅勤務などを認めていた企業が、オフィスで働く頻度を増やす動きです。週5日の完全出社に限らず、週の出社日数を増やす変更も含みます。

パーソル総合研究所が2026年7月に行った調査では、テレワーク実施率は21.4%でした。前年の22.5%から1.1ポイント下がっています。

指標 2026年の結果 対象・意味
テレワーク実施率 21.4% 調査対象の正社員に占める実施者
前年から頻度が減った 32.7% テレワーカーへの質問
原則出社の指示 24.6% 勤務方針についての回答
テレワークを続けたい 81.6% 現在のテレワーク実施者
情報通信業の実施率 55.7% 業種別では最も高い

出典:パーソル総合研究所「テレワークに関する調査2026」、2026年8月27日公表。各設問の分母は異なります。

実施率が2割だから、残り8割が在宅勤務を拒否されたわけではありません。現場での作業が必要な職種も含みます。一方、同調査では非実施理由として「制度が整備されていない」が継続的に増え、「テレワークで行える業務ではない」は減る傾向が示されています。

仕事の性質だけでなく、会社の制度・方針が、働く場所に影響していることが分かります。

出社回帰が進む理由――対話・育成と管理のしやすさ

対面なら、近くの人に短く質問でき、説明の行き違いに気付きやすくなります。新人が先輩の仕事を見て学ぶ場面や、複数部署で方針を詰める場面では、集まる意味があります。

ただし、出社を求める理由には、別のものも混ざります。

出社を求める理由 本来確かめたいこと
意思決定を早めたい 対面不足なのか、承認段階や権限の問題なのか
新人を育成したい 誰が教え、どの仕事を経験させるのか
業績を回復したい 商材、価格、顧客、競争などの要因と区別できているか
部下の状態を把握したい 成果が見えない問題か、出勤姿を見たい問題か

経営者が、以前から慣れた管理方法を使いたいこと自体は理解できます。しかし、管理者が安心できることと、会社の成果が高まることは同じではありません。

特に売上や利益の頭打ちを、リモートによる会話減少だけで説明すると、商品や戦略の課題を見落とします。出社を増やすことは施策の一つであり、業績不振の原因が見つかったことにはなりません。

出社すれば生産性は上がる?研究で確認できたこと

米国企業の分析では、出社命令による業績改善は確認されなかった

ピッツバーグ大学のMark Ma氏らは、S&P500企業の出社命令と、従業員満足度・企業業績などを分析しました。大学が公表した結果では、出社命令は従業員満足度を下げる一方、企業業績や企業価値の改善は確認できませんでした。

研究者は、業績不振の責任を社員へ向けることや、管理側が統制を取り戻すことと整合的な結果だと説明しています。個々の企業の本音を証明したものではありませんが、「出社へ戻せば業績がよくなる」という前提を支える結果でもありません。

週2日在宅の実験では、離職率が3分の1下がった

2024年にNatureへ掲載された研究では、中国の旅行テクノロジー企業Trip.comの従業員1,612人を、週5日出社と、週2日在宅・週3日出社に無作為に分けました。2021~2022年の6か月間の実験です。

結果 週5日出社 週2日在宅を認める勤務
実験期間の離職率 7.2% 4.8%
その後2年間の業績評価・昇進 比較の基準 悪化は確認されず

出典:Bloom, Han and Liang(2024)。対象は航空券・IT部門のエンジニア、マーケティング、財務等。完全在宅を試した研究ではありません。

Trip.comの無作為比較実験では週5日出社の離職率7.2%に対し、週2日在宅を認める群は4.8%。2.4ポイント差、相対で約33%減
図をタップ・クリックすると拡大できます。

この実験では、ハイブリッド勤務によって成果を落とさず、定着を改善する組み合わせが成立しました。逆に、どの職種でも完全在宅で問題ないという結果ではありません。出社と在宅を組み合わせる選択を、全面出社へ戻す前に検討する根拠になります。

通勤時間がなくなる価値は、社員の生活と採用条件に関わる

往復1時間半の通勤を週2日省ければ、週3時間が生活へ戻ります。これは理解のための計算例ですが、家事、育児、介護、休養に使える時間の差は小さくありません。

給与が同じでも、通勤負担が増えれば、社員から見た雇用条件は変わります。会社側にとっても、在宅勤務を組み合わせられることは、採用できる地域や、働き続けられる人の範囲に関わります。

出社で増える対話の価値だけを数え、失う生活時間や離職・採用への影響を数えなければ、会社にとって得な変更か判断しにくくなります。社員が感じる働く条件の変化は、管理職になりたくない理由とも共通する、負担と見返りの問題です。

ハイブリッド勤務は、次の非常時に仕事を止めない備えにもなる

コロナ禍のテレワークは、感染を抑えながら事業を続けるための手段でもありました。平時になったことと、今後オフィスへ行けなくなるリスクがなくなったことは別です。

感染症、災害、交通障害、建物の使用不能などが起きたとき、社外から業務へ接続できるだけでは十分ではありません。承認、問い合わせ、会議、顧客対応まで動かせることが事業継続に関わります。

普段から在宅勤務を使っていれば、端末や接続の不備、紙に依存した手続き、担当者だけが知る運用を発見しやすくなります。一度導入した仕組みを残すだけでなく、実際に動かす能力を保てる点に価値があります。

もちろん、在宅勤務だけで災害対策が完結するわけではありません。自宅の停電や通信障害も起こります。それでも、全員が同じ場所へ来られることだけを前提に戻すより、仕事を続ける選択肢は残ります。

出社と在宅の良さを合わせることから考える

部署やプロジェクトで出社日を合わせることは、すでに行われている工夫です。それ自体を新しい解決策にするより、その勤務形態で何を得られたかを見るほうが重要です。

商談や共同作業の速度、成果物の品質、顧客対応、定着、通勤負担などを、変更の前後で確認する。出社に戻したから安心、在宅だから先進的、という評価から離れることができます。

対面でしか得にくい価値は対面で、集中作業や生活との両立は在宅で補う。成果を維持できるなら、柔軟性と事業継続の能力を同時に残すハイブリッドは、有力な選択肢です。

よくある質問

出社回帰はテレワークの失敗を意味しますか?

そうとは限りません。業務上の課題への対応だけでなく、管理方法や経営方針も影響します。実施率の低下だけで生産性の低下を証明したことにはなりません。

ハイブリッド勤務なら生産性は必ず上がりますか?

必ず上がるわけではありません。研究で示された重要な点は、週2日在宅でも成果を落とさず離職を減らせたことです。職種や業務を踏まえ、自社の成果と負担を比べる材料になります。

まとめ|出勤を増やすことと、成果を増やすことを分ける

出社で対話や育成が進む場面はあります。ただし、その利点を会社全体の業績改善と同一視はできません。

成果を維持しながら、社員の生活、定着、非常時の継続性も得られるなら、出社と在宅を組み合わせる意味があります。慣れた働き方へ戻すだけでなく、緊急時に得た選択肢を平時にも生かす判断が求められます。

参考資料

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本記事の文章・表・図解・グラフは、Skill Business Architecture Labが独自に編集・作成しています。引用・紹介する場合は、引用箇所が分かる形で、記事名・サイト名・記事URLをご記載ください。

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