管理職になりたくない理由は?「割に合わない」を生む経営と企業の対策

管理職を選ばない理由。待遇と負担、経営への信頼、本音の把握からなり手不足を考える 組織・人材設計

「次は課長を目指してほしい」と係長に打診したところ、「今の現場の仕事が好きなので」と断られた。会社は本人の希望を尊重し、別の候補者を探す――。

それで話が終わると、会社には一つの疑問が残ります。本当に管理職の仕事を望んでいないのでしょうか。それとも、この会社で管理職になることが選ばれていないのでしょうか。

管理職になりたくない理由には、責任やストレス、勤務時間に対して報酬が見合わないという判断があります。専門性を深めたいという希望もあるでしょう。しかし、自社で辞退が続くなら、社員の向上心だけで説明するより、会社が提示している役割と条件を点検する意味があります。

この記事では調査結果を出発点に、経営の「十分に報いている」という認識がなぜ社員の判断と食い違うのか、昇進辞退からどのように課題を把握できるのかを考えます。昇進を迷う方にも、引き受ける前に確認したい条件を整理します。

  1. 管理職になりたくない理由は、責任・ストレスと見返りの釣り合い
    1. 一般社員の76.7%が消極的で、現役管理職にも「損」という評価
    2. 管理職を断る理由と、引き受けてもよい条件
  2. 管理職のなり手不足に、企業はどこまで対策しているのか
  3. なぜ「十分に報いている」会社でも、管理職が選ばれないのか
    1. 経営と社員では、管理職のリスク・リターンの見方が違う
    2. 会社や仕事への愛着が、昇進への期待につながっているか
  4. 管理職のなり手不足が見えにくい理由――辞退と退職が個人の問題になる
    1. 管理職が穴を埋めるほど、条件を変える理由が見えなくなる
    2. 「辞めたら補充すればよい」で、経験と信頼まで戻るのか
  5. 昇進を断られたときの対応――人事の聞き取りを会社の改善につなげる
    1. 直属上司への「現場が好きです」だけで、辞退理由を確定しない
    2. 「なぜなりたくないか」から「会社の何が引き受けにくいか」へ
  6. 管理職を魅力的にする企業の対策は、「実施済み」より変化で確かめる
    1. 手当・研修・権限・支援を、実際の仕事と照らし合わせる
    2. 辞退理由が変わったか、現任者の無理が減ったかを見る
  7. 管理職になりたくない・昇進辞退についてのFAQ
    1. 管理職になりたくないのは、向上心がないからですか?
    2. 会社や仕事が好きでも、昇進を断ることはありますか?
    3. 管理職になりたくないと伝えるとき、何を整理するとよいですか?
    4. 管理職手当を増やせば、なり手不足は解消しますか?
  8. 参考資料

管理職になりたくない理由は、責任・ストレスと見返りの釣り合い

一般社員の76.7%が消極的で、現役管理職にも「損」という評価

アデコ株式会社が2026年9月に公表した調査では、一般社員800人の76.7%が、将来管理職になることに消極的でした。現役管理職600人でも、59.9%が、管理職の仕事には得より損が多い、または損しかないと回答しています。[1]

調査は2026年3月19~24日に、全国の20代~60代の会社員を対象にインターネットで実施されました。昇進前の人が抱く印象だけでなく、実際に管理職として働く人の評価も厳しい結果です。

管理職を断る理由と、引き受けてもよい条件

同調査で管理職になることに消極的だった613人の回答を、理由と条件に分けると次のようになります。[1]

質問 回答項目 割合
なりたくない理由 ストレスが大きそう 78.0%
なりたくない理由 責任が増えそう 52.7%
なりたくない理由 勤務時間が長くなりそう 46.3%
引き受けてもよい条件 給与・賞与の大幅な増額 69.7%
引き受けてもよい条件 労働時間の適切な管理と削減 42.1%
引き受けてもよい条件 役職に応じたインセンティブ 35.2%

出典:アデコ株式会社調べ。各質問の回答対象は、管理職になることに消極的な一般社員613人。割合は足し合わせるものではありません。

この組み合わせから考えられるのは、管理職という肩書きそのものを嫌っているという説明より、増える負担に対して何が得られるのかを見ているということです。条件が整えば検討できる人と、役割そのものを希望しない人では、会社が向き合う課題も違います。

管理職のなり手不足に、企業はどこまで対策しているのか

HR総研が2026年4月に企業の人事責任者・担当者へ行った調査は、有効回答228件です。管理職の負担増大・役割の複雑化を問題とする回答は66%でした。一方、負担軽減・役割見直しに全社で積極的に取り組む回答は12%、部分的に取り組む回答は22%、必要性を感じながら未着手は47%でした。[2]

具体的な施策にも違いがあります。

負担軽減・役割見直しの施策 取り組んでいる割合
報酬・処遇の見直し 37%
管理職の職務範囲の明確化 30%
管理職研修・スキル開発 30%
チームメンバーへの権限委譲 21%
管理職が悩みを相談できる場 16%

出典:ProFuture株式会社/HR総研。各施策の「ある程度」「十分に取り組んでいる」の合計。社員本人の回答ではなく、人事側による回答です。[2]

別のリクルートマネジメントソリューションズの2026年6月調査では、従業員100名以上の企業に勤める人事担当者500人と管理職500人を調べています。人事側が実施している支援は評価者研修33.6%、マネジメント研修・eラーニング32.8%などが上位でした。[3]

研修は役立つ施策です。ただ、仕事を引き継ぐ人がおらず、予算を動かす権限も乏しい状態では、スキルを高めても負担が残ります。能力を高める支援と、引き受けられる条件を整える対応は、両方を見たいところです。

これらは別々の対象に行った調査です。全国の企業と社員の回答を一対一で対応させた結果ではありませんが、社員が求める条件と企業の取り組みを照らし合わせる手掛かりになります。

なぜ「十分に報いている」会社でも、管理職が選ばれないのか

経営と社員では、管理職のリスク・リターンの見方が違う

会社は管理職手当を設け、昇進によって給与も上げている。研修と相談の機会もある。それなら、これ以上条件を良くする理由はない――。経営がこう判断しているとすれば、問題は対策を知らないことだけではありません。今の条件を十分と評価していることにあります。

一方、社員は給与差だけでなく、増える勤務時間、部下への責任、好きな実務を続けられるか、困ったときに支援されるかまで含めて考えます。同じ条件でも、会社には優遇、社員には割に合わない仕事と映り得ます。

会社が用意したと考えるもの 社員が確かめたいこと
管理職手当・給与の上昇 増える時間と負担を含めても見返りがあるか
部署を任せる権限 人員・予算・業務の優先順位を実際に変えられるか
研修・相談窓口 解決できない問題を上位者が引き取ってくれるか
将来の昇進機会 その会社に自分の将来を預けたいと思えるか

これは調査の集計表ではなく、条件を比較するための本記事の整理です。

昇進を迷っているなら、「いくら上がるか」と一緒に「今の実務のうち何を手放せるか」「欠員時は誰が支援するか」「自分で決められる範囲はどこか」を確認すると、判断の前提が具体的になります。会社にとっても、打診前に説明できるかが点検の材料になります。

会社や仕事への愛着が、昇進への期待につながっているか

会社も仕事も好きで、充実しており、管理職になってもその状態が続くと思える。それなら、責任を引き受けることを前向きに考えやすいのではないでしょうか。

パーソル総合研究所の2023年調査の分析では、自由に意見を言える組織文化や、自己開示できる上司との関係が、若手社員の管理職意向とプラスの関連を持っていました。[4]

もちろん、この結果だけで会社が好きなら必ず昇進を望むとはいえません。それでも、管理職への意向を本人の性格だけで説明せず、組織との関係から考える根拠にはなります。

今の仕事が好きでも、昇進した途端に実務と管理の両方を抱え、経営の決定を部下に説明する責任まで増えるなら、充実感が続くとは思えないでしょう。自社で辞退が続くことは、会社全体への拒絶と決めつけるより、提示した役割・条件・将来への評価として受け止めたいところです。

管理職のなり手不足が見えにくい理由――辞退と退職が個人の問題になる

管理職が穴を埋めるほど、条件を変える理由が見えなくなる

例えば、欠員が出るたびに課長が担当業務を引き取り、部下の相談は夕方以降に対応する部署を考えてみます。これは構造を説明するための例です。

部署の売上や納期が保たれていれば、会社には今の人員で回っているように見えます。しかし、その裏で育成や業務改善の時間が削られているなら、同じ人数で同じ組織力を維持できているわけではありません。

管理職の頑張りが問題を埋めるほど、増員や業務削減の必要性が伝わりにくくなる。その姿を候補者が見れば、昇進後の生活も想像できます。「自分には向いていない」という言葉の中に、「今の上司と同じ働き方は続けられない」という判断が含まれているかもしれません。

「辞めたら補充すればよい」で、経験と信頼まで戻るのか

昇進の辞退はキャリアの希望、退職は個人的な事情として処理できます。社員も、会社と争うより断る、離れるという選択をすることがあります。そのため、会社への不満が経営に届かないまま、人員の問題として残りやすいのです。

採用ができ、業績が伸びている間は、その状態を修正する理由が弱くなりがちです。ただ、人数を補充することと、顧客との関係、現場の判断力、後輩を育てる力を補充することには違いがあります。

事業が厳しくなれば、条件を良くする原資や、将来の昇進機会も限られます。その時点で引き留めても、長く声を聞いてもらえなかった社員が、今回の改善を信じてくれるとは限りません。これは衰退企業すべての実態を示す統計ではなく、補充できている間にも、組織の力と信頼が減っていないかという経営上の問いです。

取引先への価格転嫁でも、条件を決める側が相手の負担を吸収できていると考えると、弱い側の我慢で続く構造が残ります。取適法と価格転嫁の記事では、この負担の行き先を扱っています。雇用と取引は異なりますが、条件を決める側が相手の負担をどう把握するかという共通点があります。

会社が条件を十分と評価し、昇進辞退を個人の希望として処理することで、条件の見直しが先送りされる循環の概念図
図をタップ・クリックすると拡大できます。

昇進を断られたときの対応――人事の聞き取りを会社の改善につなげる

直属上司への「現場が好きです」だけで、辞退理由を確定しない

冒頭の係長の例に戻りましょう。課長自身の仕事量や振る舞いが、管理職を避けたい理由だったとしても、本人には話しにくいでしょう。評価する相手に不満を伝えるより、「現場が好きです」と説明したほうが波風を立てずに済みます。

だからといって、部長が面談すれば本音が出るとも限りません。より上位の人から説得される場だと感じれば、断りにくさは増します。

人事が直属上司との間に入り、理由の整理と条件の調整を担う方法が考えられます。人事も会社側であるため、聞いた内容を誰に伝えるか、匿名で扱える範囲はどこまでか、辞退と現在の業績評価をどう分けるかを先に説明できると、話しやすさにつながります。

「なぜなりたくないか」から「会社の何が引き受けにくいか」へ

本人の意欲を問うだけでは、会社が変えられる課題を把握しにくくなります。次の表は、聞き取りと対応の整理例です。

確かめたいこと 質問の例 会社側で検討できること
役割そのものへの希望 条件が変わっても、専門職を続けたいですか 専門職としての成長・処遇
業務量・生活への影響 今の仕事に何が加わることが負担ですか 実務の移管、業務削減、人員配置
報酬・権限の釣り合い 責任に対して不足している条件は何ですか 処遇、決裁範囲、予算・人員の権限
上司・経営への信頼 困ったときに支援を期待できない場面はありますか 上位者の対応、相談経路、評価運用

複数の理由が重なっていても構いません。個人的な事情を無理に話してもらう必要はなく、答えたくない項目を選べることも大切です。

人事が聞くだけでは条件は変わりません。役割や予算を変えられる部長・経営へ課題を返し、何を変更できるか、変更できない場合はなぜかを本人に説明するところまでつながると、聞き取りに意味が生まれます。辞退後も通常の業績や役割に沿って評価されるかは、本音を話せるかに関わる運用です。

管理職を魅力的にする企業の対策は、「実施済み」より変化で確かめる

手当・研修・権限・支援を、実際の仕事と照らし合わせる

管理職手当を設けた、研修を実施した、相談窓口を作った。それぞれ意味はありますが、施策があることと、引き受けたいと思える状態には距離があります。

例えば、人員配置を変えられない課長に対して「部下へ任せる力を高める研修」だけを追加しても、部下に時間がなければ仕事を渡せません。役割を減らすなら、誰が引き取るか、何をやめるかまで決まって初めて負担が変わります。権限委譲も、部下へ責任だけを押し下げる方法になれば、同じ問題が繰り返されます。

評価制度についても、部署の短期成果だけでなく、育成や業務の再配分をどう扱うかが関係します。評価制度が機能しない理由の記事では、制度と組織の優先順位の関係を詳しく扱っています。

辞退理由が変わったか、現任者の無理が減ったかを見る

経営の「対策しています」を確かめるなら、施策の数より、その後の変化を見たいところです。次の三つなら、打診や面談の記録に短く残して追えます。

  • 同じ理由で昇進を断られることが続いていないか。
  • 現任者の実務・育成・調整の時間配分や、欠員を埋める負担が変わったか。
  • 面談で伝えた支援や権限が、就任後に実際に使えているか。

昇進の承諾率だけを目標にすると、断りにくい打診でも数字は上がります。承諾した後に役割が続けられているかと併せて見るほうが、対策の実態を捉えやすくなります。

小規模企業では、人事専任者や増員の余力がないこともあるでしょう。その場合も、経営者が聞き手を兼ねるだけでなく、直属上司以外の担当者や外部相談先を使う、不要な報告を減らす、欠員時の仕事の優先順位を経営が決めるなど、今の体制で変えられる部分から検討できます。

管理職になる人がいないのか。この会社で管理職になることが選ばれていないのか。 この問いを持つと、社員への説得より先に、会社が提示する仕事の魅力を見直す余地が見えてきます。

管理職になりたくない・昇進辞退についてのFAQ

管理職になりたくないのは、向上心がないからですか?

昇進の意向だけで、今の仕事への意欲は判断できません。専門性を深めたい人も、現在の管理職の条件では続けられないと考える人もいます。現在の成果と、別の役割を希望するかは分けて考えると整理しやすくなります。

会社や仕事が好きでも、昇進を断ることはありますか?

あります。今の仕事の充実感が、昇進後も続くと思えるかによって判断は変わります。好きな実務がなくなる、支援のない責任が増えると感じるなら、会社への愛着と管理職の辞退は両立します。会社への愛着だけを承諾の理由にするより、昇進後の条件を確かめたいところです。

管理職になりたくないと伝えるとき、何を整理するとよいですか?

役割自体を望まないのか、条件や時期が合わないのかを分けると話しやすくなります。「現在の顧客担当を続けたまま、部下の評価と育成を担うのは難しい」のように具体化すると、会社が変更できる条件も伝わります。人事など別の相談先を利用する方法もあります。

管理職手当を増やせば、なり手不足は解消しますか?

報酬は重要な条件ですが、勤務時間や支援への不安も残ります。本人が求める条件を聞き、報酬・実務の移管・権限・支援を組み合わせて検討するほうが、課題に合った対応を選びやすくなります。

参考資料


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