自己啓発実施14.9%|JILPT調査が示す人材育成の3つの断絶

JILPT「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(2025年3月)から、企業の取り組みと従業員の実態の乖離を読み解く。評価されない・時間がないという声の背景にある構造を整理します。 組織・人材設計

企業の8割超が「人材育成は生産性向上に効果がある」と考えているにもかかわらず、自己啓発を実施した従業員は14.9%にとどまる――。

2025年3月、独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)が公表した「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」は、企業調査(6,116社)と労働者調査(10,000人)の両面から、日本の人材育成の現状を数値化した資料です。

この調査結果が示唆するのは、企業と従業員の間にある認識のズレと、制度と現場の乖離という構造的な課題かもしれません。

この記事でわかること
– 企業が人材育成に効果を感じているにもかかわらず、自己啓発実施率が低い理由
– OFF-JT・OJT・自己啓発という3つの育成手段の実施率とその差
– 「評価されない」「時間がない」という声の背景にある組織設計の論点


JILPTが示した人材育成の実態と調査の背景

企業と従業員、両側から見た人材育成の現在地

本調査は、企業調査6,116社、労働者調査10,000人を対象に、2023年度の人材育成・能力開発の実態を尋ねたものです。調査時点は2024年10月1日現在であり、厚生労働省人材開発統括官からの要請を受けて実施されました。

企業側の回答では、従業員に対する教育投資が「職場の生産性の向上」に効果があると答えた割合は84.8%に達しています。一方で、OFF-JTを実施した企業は31.6%、自己啓発支援を行った企業は29.2%にとどまっています。

労働者側の回答では、2023年度にOFF-JTを受講した人は13.7%、自己啓発を実施した人は14.9%という結果でした。特に29人以下の企業では、OFF-JT受講率が1割に満たない状況が確認されています。

この数字が示すのは、企業が人材育成の必要性を認識していることと、実際に育成機会が提供されていることの間に、構造的な距離がある可能性です。


データが示す3つの断絶

断絶①|企業の認識と施策の実施率の差

企業調査では、84.8%が「教育投資は生産性向上に効果がある」と回答しています。しかし、OFF-JTを実施した企業は31.6%、自己啓発支援を行った企業は29.2%です。

この差が生まれる背景として、調査では「指導する人材が不足している」(33.5%)、「人材を育成しても辞めてしまう」(32.1%)、「人材育成を行う時間がない」(30.8%)という課題が挙げられています。

つまり、効果があると認識していても、実施できない理由があるという構造が浮かび上がります。

規模別に見ると、OFF-JT実施率は「9人以下」で16.2%、「300人以上」で76.1%と、企業規模によって大きな開きがあります。自己啓発支援も同様の傾向を示しており、規模の小さい企業ほど実施率が低くなっています。

断絶②|OJTの経験と評価の温度差

労働者調査では、「仕事を効果的に覚えるために経験したこと(OJT)」として「特にない」と答えた人が、9人以下の企業で38.5%に上っています。

企業側では、OJTの実施について「うまくいっている」「ある程度うまくいっている」と答えた割合が77.1%に達しているのに対し、従業員側では「特に何も受けていない」と感じている層が一定数存在する構造です。

この差は、企業が「OJTをしている」と認識していることと、従業員が「育成を受けた」と感じることの間にズレがあることを示唆しているかもしれません。

OJTの内容を見ると、「仕事のやり方を実際に見せている」(63.9%)、「とにかく実践させ、経験させる」(62.2%)が上位に並びます。一方で、「専任の教育係を付ける」(12.2%)、「個々の従業員の教育訓練計画をつくる」(12.4%)といった計画的・体系的な取り組みは少数にとどまっています。

断絶③|自己啓発を「しない理由」の構造

自己啓発を実施しなかった理由(複数回答)として、最も多かったのは「仕事が忙しくて時間が取れない」(32.8%)でした。次いで「自己啓発を行っても会社で評価されない」(26.1%)、「費用を負担する余裕がない」(21.5%)が続きます。

この結果が示すのは、時間の制約評価の不在という2つの壁です。

興味深いのは、「会社の人材育成や能力開発の方針が明確である」と答えた人ほど、自己啓発への意欲が高いという傾向です。方針が「明確である」とする人は、「どちらともいえない」「明確ではない」とする人よりも、研修や自己啓発を行うための時間を増やしたいと考えている割合が高くなっています。

つまり、方針の明確さが、従業員の学習意欲を左右している可能性があります。

同じような構造として、セキュリティー従事者が、セキュリティー資格の取得をしないことが合理的な構造になっている可能性があることを、セキュリティ資格は必要か|意味ないと言われる理由と組織構造から考える必要性で説明していますので、気になる方は是非ご覧ください。


経営・人事への示唆

「育成している」と「育成されている」の認識差をどう埋めるか

企業が「育成している」と認識していても、従業員が「育成されている」と感じていない状態は、組織として見えにくいコストを生んでいるかもしれません。

特に規模の小さい企業では、OJTが「とにかく経験させる」という形になりやすく、体系的な育成計画が整備されていない傾向が見られます。一方で、規模の大きい企業では、OFF-JTや自己啓発支援の実施率が高い一方で、「評価されない」という声が一定数存在する構造があります。

この状態を整理するには、以下の問いを持つことが有効かもしれません。

  • 自社の「人材育成方針」は、従業員に伝わっているか
  • OJTが「育成」として機能しているか、それとも「業務遂行」の一環として扱われているか
  • 自己啓発を支援する仕組みがあるとして、それは「評価」と接続しているか

今確認できること

本調査が示すデータは、全国平均の数値です。自社の状況がこれと同じかどうかは、従業員に直接尋ねない限りわかりません。

確認する価値がある項目として、以下のような視点が考えられます。

  • 「人材育成方針が明確である」と答える従業員の割合はどの程度か
  • 自己啓発を実施した従業員の割合と、実施しなかった理由の内訳
  • OJTとして実施している内容が、従業員に「育成」として受け止められているか

これらを数値化することで、企業が認識している「育成の実態」と、従業員が感じている「育成の実態」の距離が見えてくるかもしれません。

育成に関しての設計、数値化に関しては新卒育成がうまくいかない構造|「育てる気がない」より先に見るべき設計の問題でもまとめていますのでご参照ください。


まとめ|育成の「断絶」を設計の論点として扱う

本記事では、JILPT「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(2025年3月)を元に、企業と従業員の間にある3つの断絶を整理しました。

一度確認してみる価値があることがあります。

「自社の人材育成方針は、従業員に伝わっているでしょうか」
「自己啓発を実施した従業員は、それが評価に接続していると感じているでしょうか」

その問いに答えにくさを感じるとき、組織設計の論点として扱う余地があるかもしれません。

詳細は独立行政法人労働政策研究・研修機構「人材育成と能力開発の現状と課題に関する調査」(2025年3月)をご参照ください。

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