報告するたびに舌打ちされる。必要な確認をしても、露骨に不機嫌な態度を向けられる。周囲がその人の機嫌をうかがいながら働く職場では、仕事に必要なやり取りまで負担になります。
不機嫌になることは誰にでもあります。しかし、それを周囲への威圧や無視という形でぶつけ、職場環境を悪化させる言動には、対応が必要です。 相手を怒らせないために、周囲が我慢や調整を引き受け続ける状態は、働く環境として望ましいとはいえないでしょう。
株式会社エムフロが2026年6月に公表した調査では、働く人500人のうち74.6%が、職場に「フキハラ」をする人がいると回答しました。不機嫌ハラスメントを、自社とは関係のない話として片付けにくい結果です。
ただ、経営者が一人ひとりの相性や感情まで調整するのは難しい場面もあります。まずは部門の責任者に対応を任せ、部署として仕事を進めてもらいたいという考え方もあるでしょう。
ここで確認したいのは、仕事が回っている裏で、退職者を補うための採用と育成を繰り返していないかという点です。売上も人数も変わらないのに、同じ欠員を何度も埋めているなら、その負担は利益や現場の余力に影響します。
本記事では、フキハラの意味と対処法を押さえたうえで、人的資本への投資、離職データの分析、管理職評価という人事・組織マネジメントの観点から、自社で確認することを整理します。
フキハラとは?職場で問題になる不機嫌な態度と具体例
フキハラとは「不機嫌ハラスメント」の略で、不機嫌な口調や態度によって、周囲に威圧感や精神的な負担を与えることを指す言葉です。職場では、例えば次のような言動が問題になります。
- 特定の人の挨拶や、業務上必要な問いかけを繰り返し無視する。
- 報告や質問のたびに、露骨な舌打ちやため息を向ける。
- 机に物を強く置くなどして、周囲を威圧する。
- 判断を求められても突き放し、必要な指示や確認が進まない。
笑顔が少ないことや、一度のため息だけでは、その場面を十分に捉えられないこともあります。誰に、どのような言動があり、どの程度繰り返され、仕事や相手に何が起きているかが、状況を理解する手がかりになります。
モラハラ・パワハラとの違い
モラハラは精神的な嫌がらせを指す言葉として使われ、その一形態としてフキハラが説明されることがあります。一方、職場のパワハラには法律上の判断基準があります。
厚生労働省は、優越的な関係を背景に、業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって、就業環境が害されることを職場のパワハラの要件としています。適正な業務指示や指導は、受け手が不快に感じたというだけでパワハラになるものではありません。
「フキハラ」という呼び名自体が、独立した法的な判定基準になるわけではありません。会社が対応するときは、呼び名より具体的な行為を確認する必要があります。
調査では74.6%が「職場にフキハラをする人がいる」と回答
エムフロの調査は、2026年5月20~21日に、働く人を対象としてインターネットで任意回答を集めたものです。有効回答は500人で、女性345人、男性155人でした。

出典:Craudia採用サイト制作代行/株式会社エムフロ「フキハラが及ぼす悪影響に関する意識調査」(2026年)。調査発表・図の掲載元
74.6%は回答者の割合であり、「日本の会社の74.6%で発生している」という数字ではありません。経営者にとっては、全国の発生率を推定するより、自社の状態を一度確認するきっかけとして使う方が実務的です。

出典:Craudia採用サイト制作代行/株式会社エムフロ、同調査。調査発表・図の掲載元
悪影響についての設問は500人を対象とした複数回答です。挙げられたのは、雰囲気の悪化28.4%、コミュニケーションの減少20.6%、仕事の効率低下17.0%などでした。これは回答者が認識した影響であり、生産性が何%低下したかを測った数字ではありません。
これらの回答は、不機嫌な態度を「その人の性格だから」と片付けず、周囲への影響を確認する必要性を示しています。一方、個々の対立がなぜ起き、誰のどの行動が原因となったのかまでは、この調査では分かりません。負担の訴えを受けて具体的な行為に対応することと、対立全体の原因や責任を調べることを、分けて進めます。
不機嫌な言動への対応と、背景を理解することの両方が大切
職場のフキハラへの対応では、周囲に負担を与えている具体的な言動を確認し、改善を求めることが基本になります。不機嫌になるたびに周囲が譲る運用では、我慢する人へ負担が偏りやすくなります。
そのうえで、なぜその関係が行き詰まったのかを調べます。言動に問題があることと、対立に至る責任がすべてその人にあることは、同じではありません。 背景を調べるのは、その言動を擁護するためではなく、原因を残したまま同じ問題を繰り返さないためです。
例えば、修正を依頼しても反映されず、同じ説明と手戻りを何度も引き受けた人が疲弊して不機嫌になっている場合も考えられます。一方で、依頼の内容が曖昧だったり、求められた作業を実行する条件が整っていなかったりする場合もあります。
また、仕事の優先順位が食い違う場合もあります。一方は「顧客への返答を急ぎたい」、もう一方は「内容を十分に確認してから返答したい」と考えている。どこまで確認し、いつ返答するかを決める人が曖昧なままなら、互いに仕事のためを思っていても、同じ対立を繰り返すことがあるでしょう。

図:Skill Business Architecture Lab作成(AIを使用)。背景を考えるための模式図であり、調査結果の分類や発生割合を示すものではありません。
重要なのは、原因となった行動と、その後の言動を別々に確認し、それぞれに対応することです。相手の仕事の進め方に問題があれば改善を求め、威圧的な言動があればその改善も求めます。「双方に事情がある」で対応を止めるのでも、先に訴えた側の説明だけで責任を決めるのでもありません。不機嫌な態度だけを注意して終えると、繰り返される負担や、判断が決まらない仕組みは残ります。
上司と部下に限らず、同僚間でも起こる問題です。性格や世代で説明し切ろうとするより、具体的な仕事とやり取りへ戻る方が、必要な対応を選びやすくなります。
職場のフキハラへの対処法:まず接点を調整し、原因調査と分ける
話し合いを続けることだけが解決ではない
対処法についても500人を対象とした複数回答で、接触を減らす回答が65.8%、感情を切り離して対応する回答が10.2%でした。

出典:Craudia採用サイト制作代行/株式会社エムフロ、同調査。調査発表・図の掲載元
接触を避ける行動には、単なる「コミュニケーション不足」では説明し切れない背景も考えられます。関わることで消耗する人にとって、距離を取ることは働き続けるための対応にもなります。
冷静に話し合う、相手の事情を理解する、上司に相談する。いずれも選択肢ですが、すでに説明や調整を繰り返して疲弊している人へ、同じ努力をもう一度求めても解決につながるとは限りません。相談先の上司が、現在の配置を支持していることもあります。
関係を修復するには、相手の協力や、調整する人の権限、当事者の余力が必要です。その条件がないまま、当事者同士に解決を求め続けると、負担が増えてしまいます。
部門長による接点の調整も、当面の対応の一つ
当面の対応としては、部門長などの責任者による接点の調整が考えられます。確認できた威圧や無視には改善を求めつつ、必要な連絡を文面にする、判断の窓口を別に置く、担当や会議への参加方法を調整する、といった方法です。業務に必要な接点を保ちながら、直接の衝突を減らしやすくなります。距離を置く対応も、周囲が問題の言動を受け入れることを前提にはしない配慮が大切です。
当事者が可能な範囲で残した日時・具体的な言動・業務への影響は、相談の材料になります。責任者側も既存の連絡や作業記録を確認できれば、経緯を何度も一から説明する負担を減らせるでしょう。部門長自身が当事者なら、上位者や人事など、別の担当者による対応が選択肢になります。
相手への仕返しで対立を深めるよりも、必要な業務連絡が成立する方法を整える方が、当面の負担を減らすことにつながりそうです。その際、相談した人だけに不利益や過大な負担が寄らないようにする配慮も必要です。
接点を調整するのは、当面の消耗を止めるためです。衝突が減ったことだけで、原因まで解消したとは判断できません。
確認できた不適切な言動には対応しつつ、組織として背景を調べる。この二つを並行して進めます。具体的な被害相談への対応を、離職の統計がそろうまで待つ必要はありません。
売上が変わらなくても、採用・育成のやり直しが利益を圧迫することも
経営者が確認する対象は、職場の雰囲気だけではありません。成果を維持するために、どれだけ人と費用を使っているかです。
人が辞めても、残った社員が補い、後任を採用すれば売上は維持できるかもしれません。しかし、同じ人数を維持するために採用と教育を繰り返しているなら、その分だけ会社は資源を使っています。
MBAの人事・組織論で扱う人的資本の考え方では、採用や育成を、将来の成果につなげる投資として捉えます。社員が仕事を覚え、経験を蓄積し、成果を出すことで投資が生きます。十分に力を発揮する前に人が入れ替われば、教育を再び始める負担が生じます。
離職と定着の分析を扱う人事専門団体CIPDも、離職が組織の業績に影響することを踏まえ、状況の測定と理由の把握、定着に向けた対応を整理しています。
採用費と、現場が使う時間を分けて把握する
求人広告費や紹介手数料は、支出として見えやすい費用です。一方、面接、引き継ぎ、教育、欠員補完の時間は、人事や現場の通常業務に混ざります。
例えば、欠員補充1人につき採用に50万円を支払い、教える社員が合計80時間を使う会社を考えます。年間4人の補充なら、採用の支出は200万円、教育の時間は320時間です。説明用の仮定ですが、人数を維持するだけでも、これだけの負担が発生することが分かります。
教育の320時間は、そのまま追加の現金支出になるわけではありません。しかし、顧客対応や改善に使えた時間です。金額へ換算する場合は、給与や残業代との重複計上を避け、追加支出と社内工数を分けて管理します。
すべての採用を無駄と考える必要はありません。事業拡大に伴う増員や、必要な人材の入れ替えもあります。ここで見直すのは、改善できる問題を放置した結果、同じ欠員を埋め続けている状態です。
自社のチェックリスト:退職理由だけに頼らず、離職の偏りを見る
まずは既存の在籍・異動・退職データを使う
退職理由に、人間関係の問題が書かれていないからといって、その影響がなかったとは言えません。波風を立てずに離れたい人も、説明すること自体に疲れた人もいます。
そこで、本人が話す理由に加え、部署、職種、入社・退職日、異動履歴、担当上司などの記録から定着状況を確認します。こうした人に関するデータを組織の判断に使う取り組みが、ピープルアナリティクスです。
最初から複雑な分析ツールは必要ありません。以下の項目を、同じ期間・定義で比較するところから始められます。
| 確認項目 | 比較するもの | 偏りがあった場合に調べること |
|---|---|---|
| 部署ごとの離職率 | 同じ期間の退職者数と平均在籍人数。近い職種・雇用形態の部署とも比較 | 業務量、待遇、管理体制、採用条件 |
| 入社後の定着 | 同じ時期に入社した人のうち、一定期間後も在籍している割合 | 採用時の説明、配属、教育、初期の負担 |
| 上司・プロジェクトとの接点 | 配属や関与の期間、関わった人数、その後の異動・退職 | 役割、判断権限、具体的なやり取り、案件の難易度 |
| 同じ役割の補充回数 | 同じポジションを何度採用し直しているか | 職務の無理、必要能力と採用のずれ、支援不足 |
| 採用・育成の負担 | 補充のための支出と、教育・補完に使う社内工数 | 負担を減らせる配置や仕事の進め方 |
これは、フキハラの加害者を判定するチェックリストではありません。詳しく確認すべき場所を探すためのものです。個人の情報は、分析や対応に必要な担当者の範囲で扱います。
平均より高い離職率は、原因調査の入口になる
離職率の集計例は、「対象期間の退職者数÷同期間の平均在籍人数×100」です。例えば平均20人の部署で年間4人が退職すれば20%、平均40人の部署で4人なら10%になります。人数だけでは比較できません。自社で集計するときは、定年、契約満了、自己都合などの区分もそろえます。
ただし、平均より高いことと、特定の人が原因であることは別です。少人数の部署では1人の退職で率が大きく動きます。難しい案件を集めた部署や、短期雇用の多い部署も、条件の近い相手と比較する必要があります。
一定の人数と期間があれば、特定の上司やプロジェクトとの接点に離職が偏っていないかを検討できます。少人数なら複数年の推移と個別の経緯を併せて見ます。異動前後で変化があっても、同時期の待遇変更や繁忙などを確認し、数値だけで人物を評価しません。
目立った偏りや個別の懸念がなければ、新たな調査を広げず、通常の経営管理で経過を見る方法もあります。全社に新しい仕組みを導入することが目的ではありません。偏りが見つかったところを詳しく調べる進め方なら、確認の範囲を絞りやすくなるでしょう。
要因調査は、当事者をもう一度説得の場へ戻すことではない
確認するのは、具体的な言動に加え、仕事量、指示の変化、手戻り、決定権、評価の基準などです。既存の相談記録や業務上のやり取りを確認し、必要な聞き取りは個別に行います。説明の上手さや声の大きさだけで結論を出さないためです。
原因は、個人の対応、仕事の条件、組織の仕組みが重なっていることもあります。例えば、調整役のいないプロジェクトで判断が毎回戻るなら、相手への配慮を促すだけでは改善が難しいかもしれません。誰が何を決めるかを整理することも、検討の対象になります。
管理職を評価するときは、成果と組織を維持する負担を合わせて見る
上から見える価値と、現場が負うコストは一致するとは限らない
管理職の配置には、任命した側の評価があります。成果を出す、要求を実行する、方針を理解して動くなど、何らかの価値を認めて役割を任せていると考えられます。
そのため、現場の負担を伝えれば、すぐに配置が変わるとは限りません。任命者が負担を把握していない場合も、把握したうえで成果が上回ると判断している場合もあります。
ここで、売上は管理職の実績として評価され、採用費は人事の予算、育成の負担は先輩社員の仕事として扱われていると、成果とコストが別々に見えてしまいます。

図:Skill Business Architecture Lab作成(AIを使用)。特定の人の責任を断定するものではなく、組織全体で成果と負担を見るための模式図です。
HousmanとMinorの研究『Toxic Workers』は、個人の生産性と、問題行動による周囲への影響を含む組織の利益を分けて検討しています。研究の対象は重大な問題行動であり、今回のフキハラ調査と同じではありませんが、個人成績だけでは会社への貢献を評価し切れないという視点は参考になります。
ただし、退職者の補充費用をすべて一人の責任として計上するのも不正確です。通常の離職や案件の条件を踏まえ、現在の体制によってどんな負担が増えているかを調べます。また、確認されたハラスメントへの対応を、成果が大きいという理由で免除する話でもありません。
要因に合わせて役割・配置・評価方法を変える
経営として判断するのは、問題の言動を改善しながら、どの体制なら成果を持続できるかです。人格の好き嫌いに結論を求めず、仕事上の行動と組織への影響を評価します。
専門業務では高い成果を出しても、管理や育成で問題が生じているなら、専門職としての役割と人の管理を分ける選択肢があります。判断者不在が原因なら決定権を整理し、過大な業務量が原因なら配分を見直します。必要な技能や行動が具体的に分かっていれば、指導や研修も選べます。
管理職の評価に、短期の業績に加えて育成や後継者づくり、必要な人材の定着を含めることも考えられます。任命した側にとっても、その配置が期待した成果につながっているかを捉え直す材料になるでしょう。
離職率だけを下げる目標にすると、必要な人材の入れ替えを避けたり、問題を表に出さなくなったりするおそれがあります。成果、定着、採用・育成負担を合わせて見て、変更後の状態を判断することが重要です。
まとめ:距離を置く対応で消耗を止め、組織として原因を調べる
不機嫌を周囲にぶつけ、職場環境を悪化させる言動には、組織としての対応が必要です。部門の責任者が具体的な行為に対応し、状況に応じて当事者の接点を調整することは、消耗を減らす方法の一つになります。
ただし、目に見える態度だけで、対立の原因や責任のすべてが分かるわけではありません。言動の改善と並行して、そこに至った経緯を組織として調べます。背景の理解を免責にせず、言動への注意だけで原因調査を終えないことが大切です。
経営の観点では、自社の離職に偏りがないかを把握することが、現状を考える手がかりになりそうです。退職理由に加え、部署や配属の履歴、採用のやり直し、育成の負担を合わせて見ると、表面に出にくい課題も捉えやすくなります。目立った問題がなければ通常の管理で経過を見て、偏りがあれば要因を掘り下げる。こうした進め方も、調査の負担を抑える選択肢になるでしょう。
衝突が見えなくなっても、それだけで組織の課題が解消したとは限りません。 売上と人数を維持するために、採用と育成を何度もやり直していないか。そこまで含めて体制を見ることで、職場の問題を経営の改善へつなげる糸口が見えてくるのではないでしょうか。
参考資料
- 株式会社エムフロ:フキハラが及ぼす悪影響ランキング・男女500人アンケート調査 — 調査概要、回答割合、転載図の掲載元。調査元:Craudia採用サイト制作代行。
- 厚生労働省「あかるい職場応援団」:パワーハラスメントとは — 職場のパワハラの要件と、適正な業務指示・指導との区別。
- CIPD:Employee turnover and retention — 離職・定着の測定と組織の業績、対応を考えるための人事実務資料。
- Michael Housman・Dylan Minor:Toxic Workers(2015) — 個人の生産性と周囲への影響を含めた組織成果を検討した研究。フキハラの発生率や、日本企業への効果を示すものではありません。
本記事の文章・表・独自図解は、Skill Business Architecture Labが編集・作成しています。引用・紹介する場合は、引用箇所が分かる形で、記事名・サイト名・記事URLをご記載ください。出典を付した調査図は株式会社エムフロの公表資料であり、権利は各権利者に帰属します。


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