ITストラテジスト試験とは?問われる力・難易度・企業で育てる意味

ITストラテジスト試験の問われる力・難易度・企業で育てる意味を解説 具体資格・研修の構造分析

システムの企画や導入を経験し、経営層への説明もしている。そうした人が、改めてITストラテジスト試験を学ぶ意味は何でしょうか。「経営とITをつなぐ仕事が重要だから」だけでは、受験へ時間を使う理由になりません。その仕事は、資格のない人も日常的に担っているからです。

ITストラテジスト試験(ST)は、経営上の目的を、ITを活用した事業戦略や業務改革の計画へつなぐ知識・技能を問う国家試験です。情報処理技術者試験の高度試験に含まれ、選択式に加えて記述・論述があります。

経験者にとっての学び方の一つは、仕事で身につけた判断を、公開問題・解答例・採点講評と照らして言葉にし直すことです。知識が不足しているのか、判断の理由を省略しているのか、自分の担当外だったため説明できないのかを分けられれば、次に補う学びが見えてきます。

本記事では、資格の位置づけと公開問題に加え、実務者がどのように経験を振り返り、仕事での説明と結びつけたかを紹介します。そのうえで、会社が何のために学習を支援するか、取得の負担と合わせて考えます。

2026年度のSTはCBT方式の前期試験です。申込受付は2026年10月24日に終了し、科目B群は11月11~23日に実施されます。 また、2027年度から新試験制度へ移行する予定が公表されています。現在のSTと将来の制度案の違いは、後半で説明します。

  1. ITストラテジスト試験は、何を評価する資格なのか
    1. 国家試験の一つで、経営戦略とIT活用を結びつける
    2. 「高度」「レベル4」は、経営能力を丸ごと証明する意味ではない
  2. 何が問われる?事業の課題から実行・評価まで
  3. 実務経験者は、STで何を学び直すのか
    1. クオカードの実務者が語る、経験と学習のつなぎ方
    2. 「仕事をした」と「判断の理由を説明できる」の間を確かめる
    3. 他業種の問題は、自社で経験していない条件を考える材料になる
  4. 公開問題で分かる、STが求める判断
    1. 新サービスでは、需要と自社の技術をつなぎ、実現の障害まで考える
    2. ドラッグストアでは、顧客の便利さと企業の戦略目的を分ける
    3. 基幹システムの刷新では、「古いから新しくする」だけでは足りない
    4. DXの企画では、自分の案と関係者との協議を区別する
  5. 難易度・受験資格・費用は?取得にかかる負担を知る
    1. 2025年度の合格率は15.0%。数字の分母に注意
    2. 受験に実務経験の必須条件はない
    3. 2026年度は4科目。記述・論述もパソコンで解答する
    4. 受験手数料は7,500円。会社が負担するのは料金だけではない
    5. 勉強時間は一律に決められない。知識と説明の不足を分ける
    6. 合格に有効期限はないが、知識が自動更新されるわけではない
  6. 企業がSTを育成・採用・配置に使う意味
    1. 「企画を任せたい」の中身を、今の経験との差で考える
    2. 論述を、自社の案件を振り返る機会と組み合わせる
    3. 採用では、試験合格と、本人の担当範囲を組み合わせる
  7. ITコーディネータとの違いは?学ぶテーマと取得方法を分けて比べる
  8. 2026年度のCBT化と、2027年度の制度見直しは別の変更
    1. 2026年度STの申込みは終了。A群とB群を別の期間に受験する
    2. 現行制度は2026年度で終了予定。新試験への単純な改名ではない
  9. まとめ:経験した判断を確かめ直し、次に補う学びを見つける
  10. 参考資料

ITストラテジスト試験は、何を評価する資格なのか

国家試験の一つで、経営戦略とIT活用を結びつける

STは、経済産業省所管の情報処理技術者試験の一つです。IPA(情報処理推進機構)が試験の実施事務を担っています。資格紹介で「ITストラテジスト」と呼ばれる場合、一般的な職務の呼び方と、STの合格者という意味が混在するため、本記事では試験そのものを中心に扱います。

IPAの対象者像は、業種や事業の特徴を理解し、ITを使って事業や業務を改革する基本戦略を策定・提案・推進する人です。社内の経営企画、情報システム企画、業務改革、新しい製品・サービスの企画などに関係します。外部から企業を支援するITコンサルタントにも接点がありますが、特定の職種への就職を認める試験ではありません。

例えば、店舗とオンライン販売の顧客情報が別々になっている会社を考えてみます。データを統合する技術を説明することと、「統合によって何を変えると、会社が目指す成果に近づくか」を説明することは異なります。再購入を増やしたいのか、問い合わせ対応の手間を減らしたいのかで、統合する情報、業務手順、効果の測り方が変わるからです。

STの学習が扱うのは、この目的と手段をつなぐ部分です。ITを導入すること自体を終点にせず、事業のどこを変えるのか、そのためにITをどう使うのかを考えます。もちろん、実際の仕事ではシステムを作る人や運用する人との協働も伴います。

「高度」「レベル4」は、経営能力を丸ごと証明する意味ではない

IPAのシラバスでは、STはレベル4の試験として示されています。ただし試験要綱のレベル対応は、共通キャリア・スキルフレームワークにおけるストラテジストの「レベル4の前提要件」という位置づけです。

これは、どの会社でも経営課題を解決できると認定するものでも、管理職としての能力全体を評価するものでもありません。試験で扱う高度な知識・技能と、その人の事業経験や仕事の成果は分けて見ることになります。

例えば、製造業の基幹システム刷新に詳しい合格者でも、小売の顧客行動や医療分野の業務をすぐ理解できるとは限りません。逆に、資格を持っていない人でも、特定事業の改革を進めてきた経験は評価できます。採用や配置では、STを一つの共通指標として使いながら、任せる仕事との接点を確かめることに意味があります。

何が問われる?事業の課題から実行・評価まで

STの特徴は、戦略の言葉を覚えることにとどまらず、事業上の課題、ITの選択、実行の条件を結びつける点にあります。シラバスは、事業戦略、情報システム戦略、個別のシステム化計画、改革を進める複数案件の管理までを扱っています。

「情報システム戦略」は、会社が目指す事業を実現するために、情報やシステムをどう整えるかという方針です。「個別のシステム化計画」は、その方針を具体的な導入・改修案件にする段階です。一つの便利な製品を選ぶだけでは、会社全体の優先順位や、ほかの案件との依存関係までは決まりません。

問われる観点 仕事の言葉にすると 説明が不足しやすい例
事業・市場の理解 誰のどんな課題があり、自社の強みをどう生かすか 「市場が成長している」だけで、自社が選ばれる理由がない
IT活用の方針 どの業務や顧客体験を変え、そのために何を使うか 「AIを導入する」だけで、変える仕事が決まっていない
計画と優先順位 費用、人員、期間、既存システムの制約の中で何を先に行うか 便益だけを挙げ、現場の準備や他案件への影響を含めない
実行・評価 誰と合意し、何を見て成果や見直しの必要性を判断するか 「無事に稼働した」だけで、元の経営課題への効果を見ない

表はIPAの対象者像・シラバスを基に、当サイトが仕事上の問いへ整理したものです。右列は説明用の例で、実際の不合格答案の引用ではありません。

ここにはマーケティングとの接点もあります。顧客の要望や市場の動きを捉えるだけでなく、その要望に応える仕組みを、継続して提供できる事業へ組み立てるからです。広告や販促の知識を広く測る資格ではありませんが、顧客データの活用、店舗とオンラインの連携、新サービスの企画をIT部門と進める人には関係する領域です。

例えば会員アプリを導入するとしても、「利用者を増やす」だけでは事業効果は分かりません。利用者が増えた後に、相談の継続、再購入、対応時間の短縮など、何が変わる想定なのか。その変化を起こすには、どの情報を誰が使い、現場は何をするのか。このつながりを説明できると、アプリの機能一覧を比べる前に、必要な仕組みを絞り込めます。

実務経験者は、STで何を学び直すのか

クオカードの実務者が語る、経験と学習のつなぎ方

資格学校TACの取材に登場するクオカードの菅野直彦氏は、資格なしでも業務に支障はなかった一方、経験から得る知識の限界を感じ、会社の資格取得推奨を機に学習を始めたと語っています。

学習では、過去問の自分の答えと解答例を比べ、違いが生じた理由や判断過程を分析。論述では過去の案件を題材に書く練習を重ね、簡潔で客観的な表現を身につけたと振り返っています。仕事のプロジェクト結果報告でも、第三者に伝わる正確な記述を意識し、その訓練として論文試験を評価しています。TACの本人インタビュー

所属は取材掲載時点のものです。記事の掲載日は確認できていません。また、これは本人が述べた学習経験であり、資格取得によって会社の業績や案件の成功率が上がったと検証した資料ではありません。

ここで参考になるのは、資格を取って初めて企画ができたという話ではなく、既に持つ案件経験を、他人が読める説明へ整理し直している点です。自社の関係者には暗黙に通じる事情でも、答案の読み手には伝わりません。何を前提に判断し、どの案を選んだかを省略せずに説明する課題として、論述を使えます。

「仕事をした」と「判断の理由を説明できる」の間を確かめる

例えば、システム刷新を担当し、予定どおり稼働させた経験があるとします。これは当サイトの説明例です。本人は技術選定や移行について詳しく話せても、「なぜ部分改修ではなく刷新だったのか」「どの経営課題に対して、その構造が有効だったのか」を説明しようとすると、当時の意思決定に自分が関わっていなかったと気づくかもしれません。

この場合、刷新経験が無意味になるわけではありません。移行の実務は経験している一方、投資の必要性を決めた段階は未経験だと分かります。次に企画を担うなら、当時の企画担当者に判断材料を聞く、投資や業務分析の知識を補う、といった学びへつなげられます。

逆に、判断には関わったのに「会社の方針だったから」としか書けないなら、必要なのは用語を増やすことだけではありません。どんな事実を見て、どの条件を重く見たかを、相手が追える順序で説明し直す練習が関係します。

こうした振り返りに使えるのが、IPAの公開問題と採点講評です。2025年度の基幹システム刷新の講評では、技術更新だけの説明と、業務改革だけで新しいシステムの構造に触れない説明の両方が指摘されています。自分の経験の説明がどちらへ偏るかを照らす材料になります。IPAの午後Ⅱ採点講評

ただし、講評は個人別の診断書ではありません。試験の評価観点を使って、自分の知識や説明の不足を調べる学び方です。答案が評価されたことと、現実の投資判断が適切だったことも区別します。

他業種の問題は、自社で経験していない条件を考える材料になる

自社での経験が豊富でも、扱う事業や顧客、制約は限られます。STの事例問題では、与えられた企業の目的と条件を読み、自分の会社で慣れた結論をそのまま当てはめずに考える必要があります。

例えば、顧客に便利な施策を答えられても、その企業が出店で狙う成果を問われた設問への答えにならないことがあります。後で取り上げるドラッグストアの問題が、その違いを具体的に示します。学習では、自分の答えが何に答えていて、設問が何を求めていたかを比べることができます。

これは他業界の実務経験を取得したことにはなりません。実案件なら自分で調査する情報が、問題では与えられているからです。それでも、異なる条件で判断する練習と、知識をどこへ補うかを見つける材料にはなります。

STは、こうした問題と論述を共通の到達目標にできる学習の選択肢です。既に同等の範囲を学び、案件を振り返る仕組みを持つ人には、受験が必須になるわけではありません。目的が特定技術の習得や顧客調査の方法に絞られているなら、その研修や実践を優先する選択もあります。

公開問題で分かる、STが求める判断

どの程度具体的に考えるのかは、公開問題と採点講評を見ると分かります。以下は2025年度春期試験の架空ケースや論述課題を取り上げています。実企業の導入成果や、2026年度の非公開問題ではありません。

2025年度までの「午後Ⅰ」は2026年度の「科目B-1」、「午後Ⅱ」は「科目B-2」に対応します。2026年度のCBT化では、問う知識・技能の範囲や記述・論述という出題形式は変更されていません。

新サービスでは、需要と自社の技術をつなぎ、実現の障害まで考える

午後Ⅰ問1は、動画解析に強みを持つスタートアップ企業の新規事業を扱っています。公式の解答例と講評では、市場のニーズと自社サービスの適合に加え、提携先の動画圧縮技術によって通信の負荷を減らす意味が示されています。また、新サービスを始めるまでに契約管理システムの改修を終える点も解答例に含まれます。

ここから読み取れるのは、技術的に優れたサービス案だけでは、事業の説明が完結しないということです。顧客が求める機能があっても、通信や人員の制約で使いにくければ普及しません。販売できる状態を整えるには、契約などの社内業務の準備も関係します。

マーケティングの企画でも似た場面があります。以下は当サイトの説明例ですが、オンライン相談サービスの需要を見つけたとき、相談機能だけを用意しても、予約の管理や担当者の確保が追いつかなければ、利用者は必要な時に相談できません。広告で集客を増やす前に、どの部分が提供量を制限するかを把握すると、投資先が変わります。

STの問題が求めるのは、「需要がある」「技術を持っている」という別々の説明を、事業として提供できる理由へつなぐ判断です。提携すること自体が正解なのではなく、どの制約を、その相手の何の強みで解消するかが問われています。

ドラッグストアでは、顧客の便利さと企業の戦略目的を分ける

午後Ⅰ問3は、ドラッグストアがITを活用して新しいサービスを立ち上げるケースです。問題文では、店内のサービスとオンラインのサービスを組み合わせ、健康相談などを提供する方針が示されています。単に商品を販売するだけでなく、生活の質を高めたいという顧客の変化を捉えています。

採点講評で注目したいのは、出店戦略の狙いを問う設問です。顧客が近くで用事を済ませられるという説明では、企業側の戦略目的に答えたことにならないと指摘しています。解答例は、地域の顧客との関係を自社につなぎ止める狙いを示しています。

顧客にとって便利なことと、それが企業にとってどんな価値を持つかは、つながっていても同じではありません。便利なサービスを提供しても、一度使われて終わるのか、継続的な相談や購買につながるのかで、事業としての意味が変わります。問題文にはLTV、つまり顧客との関係が続く期間を通じた価値を高める方針もあります。

ただし、このケースを読んで「オンライン相談を導入すればLTVが上がる」と一般化することはできません。問題で与えられた企業の狙いと施策の関係を理解することと、現実の企業で効果を実証することは異なります。

実務に引き寄せるなら、サービスの便利さだけでなく、顧客との関係がどう変わる想定か、提供する側の負担に見合うかを考える材料になります。相談の利用回数が増えても、それが継続的な利用に結びつかず、担当者の負荷だけ増える場合もあり得ます。事業目的に対応した評価指標を置く理由はここにあります。

顧客の困り事から事業上の狙いを定め、業務とITの変更につなぎ、実行後の評価から見直す関係
図をタップ・クリックすると拡大できます。

図1:STの学習内容を仕事の判断へつなぐ説明図。具体例は当サイト作成で、公式試験の解答図ではありません。顧客価値と企業の成果の間には、業務・ITの設計と、実行後の検証があります。

基幹システムの刷新では、「古いから新しくする」だけでは足りない

午後Ⅱ問1は、基幹システムの刷新方針を策定する論述課題です。基幹システムとは、販売、生産、会計など、事業の主要な仕事を支えるシステムを指します。

この課題は、刷新の背景、必要性と経営上の有効性、事業部門との調整や経営層への説明までを問います。講評では、技術面の更新だけに終始する記述や、逆に業務改革を述べるだけで新しいシステムの構造に具体性がない記述を指摘しています。

つまり、経営の話だけでも、技術の話だけでも完結しません。どんな経営課題に対し、なぜ今の仕組みの改修では不十分で、新しい構造がどう役立つかをつなげることが求められます。

例えば、複数拠点で在庫を共有できず、顧客への納期回答が遅れている会社を考えます。これは当サイトの説明例です。クラウドに移すだけで在庫情報がそろうとは限らず、拠点ごとの商品コードや更新手順が違えば、データの整備と業務の統一も関係します。一方、全部を一度に変えると現場の負担や移行リスクが大きいなら、どの業務から進めるかという優先順位も生まれます。

この説明ができれば、経営者は「新しい技術だから」という理由ではなく、納期回答の改善という目的と、そのための変更範囲から投資を考えられます。STの論述で求められる具体性は、こうした提案を受け取る側の理解にもつながります。

DXの企画では、自分の案と関係者との協議を区別する

午後Ⅱ問2は、DXの企画策定を扱います。講評では、デジタル技術の導入やデータ活用の説明に偏り、何を変革するのかが曖昧な論述や、経営層・事業部門との協議内容が示されない論述が指摘されています。

ここでのDXは、技術を取り入れることだけでなく、製品・サービスや業務、組織などの変化に関係します。自分が良いと考えた案でも、現場の仕事を増やす、既存の評価制度とぶつかる、顧客対応の責任が曖昧になるといった問題があれば、そのまま実行できるとは限りません。

試験では、そのような障害をどう捉え、誰と何を協議し、企画にどう反映したかを文章で示します。この点は、合格者の職務経歴を聞く際の視点にもなります。ただし、試験が評価するのは答案に表れた説明です。実際の会議での交渉や合意形成を直接観察する試験ではないため、そこは仕事の経験から別に確かめることになります。

原問題・解答例・講評は、IPAの2025年度公開問題ページで確認できます。

難易度・受験資格・費用は?取得にかかる負担を知る

2025年度の合格率は15.0%。数字の分母に注意

2025年度春期STの応募者は7,889人、実際の受験者は5,586人、合格者は836人でした。IPA公表の合格率は15.0%です。これは合格者数を受験者数で割った割合で、応募者全員を分母にした数字ではありません。

この割合から、一定の準備が求められる試験であることは分かります。ただし「自分の合格確率が15%」「ほかの資格より価値が高い」とは判断できません。受験者の経験や準備、試験形式が異なるためです。2025年度の結果は筆記方式で実施された試験の実績であり、2026年度のCBT方式の合格率を予測する数字でもありません。

同年度の合格者の平均年齢は40.4歳ですが、これも受験に必要な年齢や実務年数を示してはいません。難易度を考えるうえでは、数字とともに、事例を読み解くことや自分の判断を論述することの負担を見たいところです。

受験に実務経験の必須条件はない

2026年度の受験案内では、年齢や国籍等の制限はなく、どの試験区分も受験できます。STの受験前に、基本情報技術者や応用情報技術者に合格することが必須という制度ではありません。

一方、論述には自身の経験と考えに基づいて説明することが求められます。受験資格に経験年数の制限がないことと、実務の状況を理解せずに答えやすいことは別です。経験が少ない人には、経営・業務・ITの用語だけでなく、企業がどのような制約の中で計画を決めるかを学ぶ負担もあります。

合格者を採用する側も、この区別が重要です。資格の合格証明から、その人が何年間企画業務を担当したか、どの規模の案件を主導したかまでは分かりません。経験条件のある認定資格と同じ扱いにはできません。

2026年度は4科目。記述・論述もパソコンで解答する

現行STは、次の4科目で構成されます。CBTは試験会場にあるパソコンで解答する方式で、自宅でいつでも受験できる仕組みではありません。

2026年度の科目 旧名称 試験時間 形式・解答数
A-1 午前Ⅰ 50分 四肢択一、30問すべて
A-2 午前Ⅱ 40分 四肢択一、25問すべて
B-1 午後Ⅰ 90分 記述式、3問から2問
B-2 午後Ⅱ 120分 論述式、2問から1問

出典:IPA「ITストラテジスト試験」「試験要綱Ver.5.6」。免除がない場合の解答時間の合計は300分で、休憩・受付・移動の時間は含みません。A群とB群は異なる実施期間です。

合格基準は、A-1・A-2・B-1がそれぞれ100点満点中60点、B-2が評価ランクAです。総得点で不足科目を補う方式ではありません。試験要綱には、前段階で基準に達しない場合は後続科目を採点しない扱いも示されています。

一定の過去の合格や午前Ⅰ通過などによってA-1の免除を申請できる制度があります。2026年度前期では、2024・2025年度の春期・秋期における応用情報・高度試験・支援士試験の合格者などが対象です。「応用情報に合格していれば永久に免除」ではなく、対象年度を含む条件に沿って申請します。

受験手数料は7,500円。会社が負担するのは料金だけではない

2026年度STの受験手数料は7,500円(税込)です。別途必須の認定研修を修了してから受験する仕組みではありません。教材・講座・論述添削を選べばその費用、会場へ出向けば交通費も加わります。

企業で支援する場合、受験料の安さだけでは育成の負担を見積もれません。例えば、当サイトの予算検討例として、業務時間内に週2時間を12週間確保すると、学習枠は24時間です。これは必要勉強時間の目安ではなく、会社が確保する時間を計算した例です。さらに答案をレビューする先任者や上司の時間を設けるなら、その工数も加わります。

教材代を支給しても、本人が日々の仕事から離れて事例を考える時間や、説明の不足を見つける機会がなければ、知識の暗記に偏ることがあります。受験料、学習に使う時間、フィードバックの機会を分けて設計すると、支援内容を具体化できます。

勉強時間は一律に決められない。知識と説明の不足を分ける

IPAの学習資料は、必要な時間数ではなく、学ぶ知識・技能や実際の問題を示しています。全受験者に共通する標準勉強時間を示すものではありません。「何時間で取れるか」を一つの数字で断定するより、現在の経験と出題内容の距離を見るほうが、育成計画に使えます。

技術者の場合、システムの仕組みは理解できても、市場や顧客、収益、業務の優先順位から企画を説明する部分が課題になることがあります。営業・マーケティング・業務企画の経験者では、顧客や現場の事情を説明できても、データの管理、システム間の連携、セキュリティなどの基礎を補うことになります。

また、内容を理解していることと、制限時間内に筋道立てて書けることも異なります。公開問題を一つ読み、理由を自分の文章で答えてみると、用語が分からないのか、事実と目的をつなげられないのか、説明を組み立てるのに時間がかかるのかを分けられます。

独学でも準備はできますが、自分では通じているつもりの説明を、自分だけで点検する難しさがあります。講座や添削を選ぶなら、問題数や動画時間だけでなく、事業の目的と選んだ方法の関係をどこまで確かめてもらえるかが比較材料になります。これは試験対策だけでなく、実務の企画書を分かりやすくする練習にもつながります。

合格に有効期限はないが、知識が自動更新されるわけではない

IPAのFAQでは、試験合格に有効期限はなく、過去の合格が無効になることはないと説明されています。STの合格を維持するために、毎年の更新料や継続教育報告を必須とする制度ではありません。

ただし、合格は受験時点の知識・技能の水準についての評価です。顧客行動、事業環境、利用する技術が変われば、仕事に必要な知識も変わります。採用や配置では、合格年度とともに、その後に担当した仕事や学習内容を聞くことで、現在の職務とのつながりが見えてきます。

企業がSTを育成・採用・配置に使う意味

「企画を任せたい」の中身を、今の経験との差で考える

会社がSTの学習を支援する際には、次に任せたい役割と、本人がまだ担当していない判断を合わせて考えます。企画経験者にも不足があると決めつけるのではなく、どの経験を整理し、何を補いたいかを本人と確認する進め方です。

例えば、顧客向け機能の開発を担当してきたリーダーに、次はサービス全体の企画へ参加してほしいとします。機能の実現方法は分かっていても、販売・契約・運用の準備まで含む事業計画は担当していないかもしれません。先に見た動画解析サービスの問題は、技術の強みに加え、提携先や契約管理の準備を考える教材になります。

その学習を踏まえ、自社の次の企画で営業・運用担当者の検討にも参加してもらうと、公開問題では与えられていた条件を、現実には誰に聞き、どう確かめるかを経験できます。これは当サイトの育成設計例で、資格取得者だけに可能な仕事を示すものではありません。

会社が用意する意味は、受験料の補助に加え、普段の担当外の知識を学ぶ時間と、その知識を使う仕事への参加機会を確保することにあります。試験の範囲を全部学ぶ必要があるか、まず一つの領域を補えばよいかも、育成課題によって変わります。

論述を、自社の案件を振り返る機会と組み合わせる

もう一つは、実務経験のある人に、担当した案件の判断を説明してもらう育成です。新しい用語を覚えることだけを求めるのではなく、「なぜその方針を採り、誰との協議で何を変え、何を結果として確かめたか」を短くまとめてもらいます。試験答案に職場の機密を持ち込む必要はありません。

上司や経験者が読むときには、文章の巧拙だけでなく、経験したが説明を省略していた部分と、担当しておらず知識が不足している部分を分けます。前者なら理由を言葉にする助言、後者なら関連資料の学習や会議への参加を組み合わせられます。

例えば「関係部門と調整した」とだけ書かれていた場合、実際に何の条件が対立し、計画のどこを変えたかまで説明できるかを確かめます。そこまで関与していなかったなら、次の案件で協議に参加する経験を積む候補になります。これにより、合格者数とは別に、誰のどの経験を広げる必要があるかを把握できます。

試験の採点は外部の共通基準ですが、自社での判断の妥当性は、自社の制約と結果を踏まえて確認します。採点講評を、そのまま社内投資の承認基準に置き換えるものではありません。

採用では、試験合格と、本人の担当範囲を組み合わせる

ST合格は、受験時点で選択・記述・論述の基準を満たしたという情報です。一方、業種の理解、予算や人員を動かした経験、反対意見のある部門との協議の範囲は、職務経歴や本人の説明から確かめます。

例えば「何を導入したか」に加え、「なぜその業務を先に変えたか」「採らなかった案の理由」「協議で計画を変えた点」を聞くと、その人が参加しただけなのか、判断を担ったのかを理解しやすくなります。前職の資料を提出してもらわなくても、機密を除いた説明で担当範囲を確認できます。

STがない人の同じ経験も評価対象です。大規模案件の名称や資格名だけで順位をつけず、次に任せる仕事に近い判断をどこまで経験したかを見ることが、採用・配置への使い方になります。

ITコーディネータとの違いは?学ぶテーマと取得方法を分けて比べる

ITコーディネータ(ITC)も、経営・業務・ITをつなぐ資格です。STが戦略、ITCが現場だけという分け方では、両者が扱う範囲を狭く捉えてしまいます。どちらも、ITを使った変化を計画・推進する仕事に関係します。

違いを把握するには、テーマの近さに加え、何を経て取得し、取得後に何が求められるかを見ると分かりやすくなります。

比較点 ITストラテジスト試験(ST) ITコーディネータ(ITC)
位置づけ 経済産業省所管の国家試験 ITコーディネータ協会が認定する資格
取得の構成 選択・記述・論述を含む試験に合格 試験合格とケース研修修了後、認定を申請
学習・評価の特徴 事例に応じた判断や、自身の経験と考えを文章で説明する ガイドラインに沿った学習に加え、仮想企業の演習・討議を経験する
取得後の制度 試験合格に有効期限なし 毎年の更新、実践力ポイントなどの条件がある

出典:IPAの試験要綱・FAQ、ITCAの資格取得案内・ケース研修案内。現行制度の比較です。

STでは、学び方を自分や会社で組み立て、試験を共通の到達目標にできます。一方、ITCでは、取得過程に6日間のケース研修が含まれ、資料を読んで考え、他の参加者と議論する学習機会が制度に組み込まれています。したがって、料金だけを並べると、含まれる学習機会の違いを見落とします。

すでに企画の経験があり、それを体系化して判断の説明を磨きたい人には、STの問題や論述が具体的な学習材料になります。他者との演習を通じて一連の進め方を経験させたい場合には、ITCの研修内容を検討する理由があります。どちらを選んでも、自社で実行し成果を確かめる経験は別に積むことになります。

ITCの費用・研修・認定後の負担は、ITコーディネータの仕事内容と取得方法を解説した記事で詳しく整理しています。

また、ITの計画や管理が適切かを独立した視点で確かめたい場合には、STとは別に監査の学習が関係します。システム監査技術者(AU)の紹介記事は、証拠に基づいて評価・報告する仕事を扱っています。戦略を提案する役割と、その妥当性を評価する役割の違いから読むと整理しやすくなります。

2026年度のCBT化と、2027年度の制度見直しは別の変更

2026年度STの申込みは終了。A群とB群を別の期間に受験する

IPAが公表した2026年度STのスケジュールは次のとおりです。「前期」という名称ですが、従来の4月の春期試験を意味していません。

項目 2026年度STの公表日程
申込受付 2026年10月6日10時~10月24日17時
科目A-1・A-2 2026年10月17~27日
科目B-1・B-2 2026年11月11~23日
合格発表 2027年2月頃の予定

時刻は日本時間です。出典:IPA「令和8年度の申込受付期間及び試験実施期間」(2026年9月17日更新)。2026年10月27日時点で申込受付は終了しています。

申込みでは、A群とB群を同時に予約する案内です。会場や予約枠から選んで受験する方式で、年間を通じていつでも受け直せる試験ではありません。2026年度後期にはSTは含まれていません。

身体の不自由等によりCBTで受験できない人向けには、別途、筆記方式の特別措置試験が案内されています。必要な申請や日程が異なるため、該当する場合は通常のCBT日程だけで判断せず、公式の特別措置案内が確認先になります。

現行制度は2026年度で終了予定。新試験への単純な改名ではない

IPAは、現行試験制度を2026年度の試験実施で終了し、2027年度から新試験制度へ移行する予定としています。2026年3月31日公表・4月28日更新の検討状況では、応用情報技術者試験と高度試験を大括りにして再編し、プロフェッショナルデジタルスキル試験(仮称)の三つの領域を設ける案が示されています。領域はマネジメント、データ・AI、システムです。

これは、STという名前だけを新しい名前に置き換える説明ではありません。現行STの4科目や論述形式を、そのまま2027年度の受験案内として使うことはできません。

2026年度の現行STはA群とB群をCBTで受験。2027年度からは新制度へ移行予定で、再編案と未確定事項を区別する
図をタップ・クリックすると拡大できます。

図2:IPAの2026年度日程と制度見直しの案内から作成。上下は別の制度段階で、期間の長さを比例させた図ではありません。

公表資料では、新設試験は2027年度夏頃から秋頃の開始予定とされていますが、実施時期・期間の詳細は検討中です。科目免除や経過措置も検討状況として示されており、確定した詳細は未公表です。新制度のサンプル問題も公開されていますが、サンプルの公開をもって現行STの内容が変更されたわけではありません。

「STは廃止されるのか」という疑問には、現行区分を含む制度は終了・再編予定と答えられます。ただし、過去のST合格が無効になることとは別です。IPAのFAQでは、過去の試験合格に有効期限はなく、旧試験の合格が新試験の合格へ自動的に移行するわけでもないと説明しています。新制度の具体的な免除条件は、今後の正式案内と分けて確認する対象です。

これから育成を始める企業は、2026年度STへ新規申込みできる前提で計画を立てることはできません。一方、公開問題を使って、事業上の目的とITの選択を説明する学習は始められます。試験合格をいつ・どの区分で目指すかは新制度の正式な条件に合わせ、仕事で育てたい判断内容は先に明確にするという分け方ができます。

最新の制度案内は、IPA「試験制度の見直しについて」に集約されています。

まとめ:経験した判断を確かめ直し、次に補う学びを見つける

ITストラテジスト試験が扱う企画や戦略の仕事は、資格なしでも行われています。STを学ぶ理由は、それらを資格固有の能力にすることではなく、既存経験を公開問題や採点講評と照らし、自分の判断を第三者へ説明し直す機会にできることです。

実務者の取材では、解答に至る判断過程の比較や、自分の案件を使った論述練習と、仕事の報告への意識が語られています。試験内容からも、技術だけ・業務だけに偏らない説明や、関係者との協議を具体化する観点を読み取れます。

会社が支援するなら、誰にどの判断を次に任せたいか、その人の経験のどこを補うかを先に考えられます。試験の学習と、未経験の検討や協議へ参加する機会を組み合わせれば、合格以外に確かめたい理解も明確になります。

2026年度のSTは申込みが終了し、2027年度からは新制度への移行が予定されています。公開問題で学ぶ内容と、今後どの試験へ申し込めるかは分けて判断し、受験計画は正式な制度案内に合わせて組み立てる必要があります。

参考資料

情報確認日:2026年10月27日。2025年度の公開問題、2026年度の現行試験、2027年度からの制度見直し予定を区別しています。

  1. IPA:ITストラテジスト試験 — 2026年7月6日更新。対象者、役割、科目・形式。
  2. IPA:試験要綱Ver.5.6 — 2026年7月6日掲載。レベル対応、合格基準、採点・免除の扱い。
  3. IPA:STシラバスVer.4.2 — 2023年版、現行掲載資料。PDF3ページ以降、事業戦略・システム戦略・計画・改革プログラム。
  4. IPA:2025年度春期試験の合格発表 — 2025年7月3日公表。応募者、受験者、合格者、合格率、平均年齢。
  5. IPA:2025年度春期ST午後Ⅰ問題・解答例・採点講評 — 問1・問3。ドラッグストアの施策は問題冊子14~15ページ、解答例2ページ。本文は要点の説明で、問題の全文転載ではありません。
  6. IPA:2025年度春期ST午後Ⅱ問題・採点講評 — 問題冊子4・6ページ、講評1ページ。基幹刷新とDX企画。
  7. IPA:2026年度の申込受付・試験実施期間 — 2026年7月6日公表、9月17日更新。日程、受験料、CBT、免除対象。
  8. CBT-Solutions:2026年度の受験資格 — 受験条件の案内。ページの公表日は未確認。
  9. IPA:試験に関するFAQ — 2026年9月2日更新。主催、学習資料、合格の有効期限と過去の合格の扱い。
  10. TAC:ビジネスに役立つ資格図鑑・ITストラテジスト — クオカード菅野直彦氏の取材部分。閲覧時の掲載内容で、掲載日未確認。現行の日程・形式の根拠には使用していません。
  11. ITCA:ITコーディネータ資格取得案内・ケース研修 — 認定条件、更新、研修の構成。
  12. IPA:試験制度見直しの検討状況 — 2026年3月31日公表、4月28日更新。再編・開始予定・免除の検討状況。公表内容は変更される場合があります。

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