「今期の売上を作る施策と、来期以降のための投資に、予算を何対何で配分すればよいか」
マーケティング予算を検討するとき、「短期7:中長期3」などの目安を探したくなるかもしれません。しかし、短期施策と中長期投資に、すべての会社で使える共通の適正比率はありません。
中長期投資へ予算や工数を配分することは、場合によっては今期の売上や利益より、2年後、3年後の成長を優先することを意味します。これは部門長が一般的な比率を当てはめて決めるものではなく、経営の意思として決める投資判断です。
部門長が行うのは、会社の中期経営計画、部門別目標、今年度の着地見込みを確認し、次の選択肢を経営へ示すことです。
- 今期の目標を追うために短期施策を優先する
- 今期の成果を一部抑えて中長期投資を進める
- 追加の予算や人員を確保して両方を進める
また、広告は短期、SEOは中長期と、施策名だけで分類することもできません。何を行うかではなく、どの年度の事業目標へ寄与させるのかで区分する必要があります。
本記事では、短期施策と中長期投資のマーケティング予算を、中期経営計画と年度着地から決める方法を解説します。
短期施策と中長期投資に共通の適正比率はない
短期施策と中長期投資の配分は、事業フェーズだけでは決まりません。
同じ成長期の会社でも、資金に余裕があり、今期の利益を下げてでも市場シェアを取りたい会社と、今期の利益や資金繰りを守らなければならない会社では、許容できる中長期投資が異なります。
また、すでにWebサイト、CRM、顧客データ、商品などの基盤が整っている会社と、基盤から作り直さなければならない会社でも必要な投資は変わります。
「短期7:中長期3」は部門長が独自に決められない
短期施策へ70%、中長期投資へ30%を配分する場合、その30%を本来は今期の売上を作るために使えた可能性があります。
たとえば、中長期投資を増やすことで、次のような影響が生じるかもしれません。
- 今期の広告出稿を減らす
- 営業支援や販促へ使う工数を減らす
- 今期のCVや商談数が少なくなる
- システム改修やデータ整備へ人員を回す
- 今期の利益を下げて翌年度以降の成長を優先する
こうしたトレードオフは、マーケティング部門内の施策選択ではありません。会社全体として、どの年度の成果を優先するかという経営判断です。
部門長が中長期投資の重要性を理解していても、経営から求められた年度目標を犠牲にして、独自に大規模な投資を始めることはできません。内容が将来的に正しくても、承認された予算や人員を別の目的へ使えば、経営からの信頼を損なう可能性があります。
部門長は比率ではなく選択肢ごとの結果を提示する
部門長が経営へ提示すべきなのは、一般的な推奨比率ではなく、選択肢ごとの結果です。
| 選択肢 | 今期への主な影響 | 翌年度以降への主な影響 |
|---|---|---|
| 短期施策を優先する | 今期目標を追いやすい | 将来施策の準備が遅れる |
| 中長期投資を優先する | 今期成果が下がる場合がある | 2年目以降の成長や基盤改善を見込める |
| 追加リソースで両立する | 今期目標を維持できる余地がある | 将来準備も進められるが、利益や資金繰りへ影響する |
部門長は、それぞれの場合に見込まれる売上、KPI、必要予算、必要工数、リスクを試算します。その情報を基に、どの選択肢を取るかを経営が判断します。
経営判断を受けた後に、部門長が具体的な施策と予算、担当者、実施時期へ落とし込みます。
短期・中長期は施策名ではなく成果が出る年度で分ける
マーケティングでは、広告は短期施策、SEOやコンテンツは中長期施策と説明されることがあります。施策の一般的な特徴を理解するには分かりやすい分類ですが、予算計画では十分ではありません。
短期施策と中長期投資は、次のように区分します。
| 区分 | 本記事での位置づけ |
|---|---|
| 短期施策 | 次年度の事業目標を達成するために必要な活動 |
| 中長期投資 | 2年目以降の目標達成や、将来の施策実行に必要な活動 |
同じ広告やSEOでも目的によって時間軸は変わる
検索広告を使って、すでに商品を探している顧客を獲得し、今期の売上を作るのであれば短期施策です。
一方、新しい市場で需要があるかを検証し、翌年度の商品戦略へ反映する広告は、中長期投資としての性質を持ちます。
SEOも同様です。
- 既存記事を改善して今期の検索流入を維持する:短期施策
- 今期のCV獲得に必要なページを改善する:短期施策
- 2年後の検索流入を作る新規コンテンツ群を開発する:中長期投資
- 将来の記事拡充に備えてサイト構造を見直す:中長期投資
同じ施策でも、何のために、いつ成果を出すのかによって時間軸は変わります。
中長期投資には成長投資と基盤投資がある
中長期投資というと、SEO、認知、顧客育成など、将来の顧客や売上を増やす活動を思い浮かべるかもしれません。
しかし、中長期投資にはもう一つ、将来の施策を実行できる状態を維持するための基盤投資があります。
将来の売上を作る成長投資
成長投資は、今期の売上へすぐに反映されなくても、翌年度以降の顧客や売上を増やす活動です。
- SEOやコンテンツの新規開発
- 将来顧客になる層への情報提供
- 新市場や新商品の需要検証
- サービス単位の戦略PR
- 継続的な顧客育成
これらは、準備、公開、効果発生、効果成長までに時間がかかります。2年目に成果が必要なら、1年目から始めなければ間に合わないことがあります。
将来の施策を実行できる状態を守る基盤投資
基盤投資は、直接売上を作るとは限りません。しかし、先送りを続けると、サービスレベルが低下し、新しい施策の実行が難しくなります。
- CRMや顧客データの整備
- WebサイトやCMSの改修
- 販売管理システムの更新
- 社員が使う管理システムの改善
- クライアントが使う管理システムの改善
- データベースや計測基盤の見直し
- フレームワークやミドルウェアの更新
たとえば、販売管理システムとCRMを接続できなければ、マーケティング施策がどの程度売上へつながったかを確認できません。
WebサイトやCMSの制約によって新しいページを作れなければ、SEOや広告の改善案があっても実行できません。クライアント向け管理システムの操作性が悪ければ、マーケティングが新規顧客を獲得しても、利用率の低下や解約につながります。
基盤投資は、余裕のある会社だけが行う未来への投資ではありません。現在の仕組みを放置することで、将来できなくなることを減らす投資でもあります。
重大な脆弱性や障害は緊急対応として分ける
もともとは中長期の基盤課題でも、重大なセキュリティホールや障害が見つかれば、通常の優先順位では扱えません。
放置によって顧客の信頼を失う、サービスを提供できなくなる、重大な損失が発生する場合は、緊急対応として短期施策や計画済みの中長期投資より優先します。
年間計画では、次の4区分に分けると整理しやすくなります。
| 区分 | 主な目的 | 例 |
|---|---|---|
| 短期施策 | 次年度の目標達成 | 広告、販促、既存顧客への追加提案 |
| 中長期の成長投資 | 2年目以降の売上を作る | SEO、コンテンツ、需要検証 |
| 中長期の基盤投資 | 将来の施策実行基盤を守る | CRM、サイト、販売管理、データ基盤 |
| 緊急対応 | 信頼崩壊や重大損失を避ける | 重大な脆弱性、障害への対応 |
中計の状態に応じて投資の進め方を変える
短期施策と中長期投資を配分する前に、会社の中期経営計画、自部門の複数年度数値、実行部門による検証の有無を確認します。
| 会社の中計 | 自部門の複数年度数値 | 実行部門の検証 | 次に行うこと |
|---|---|---|---|
| ある | ある | 済み | 2年目・3年目の目標から今年必要な投資を逆算する |
| ある | ある | 未実施 | 市場、予算、工数、準備期間から実現可能性を検証する |
| ある | ない | ― | 自部門が担える数値と必要投資をマーケティング部から提案する |
| ない | ない | ― | 経営・経営企画と方針を確認し、マーケティング部主導で中計案を作る |
中計と部門目標がある場合は実現可能性を確認して逆算する
2年目、3年目に自部門が達成すべき売上や顧客数が決まっていれば、成果が必要になる時期から、今年着手すべき投資を逆算できます。
ただし、計画に数値が書かれているだけでは十分ではありません。少なくとも、次の点をマーケティング、営業、開発などの実行部門で確認します。
- 市場に目標達成に必要な需要があるか
- 必要な顧客数やCVを獲得できるか
- 営業が必要な商談数を処理できるか
- 商品やサービスが増加する顧客を受け止められるか
- SEOやシステム整備などの準備期間が反映されているか
- 必要な予算、人員、工数を確保できるか
実現可能性を確認したら、まず次年度の目標を現在の体制で達成できるかを試算します。そのうえで、2年目以降に必要なKPIと、施策の準備、リリース、効果発生、効果成長までの期間を並べます。
たとえば、2年目に検索経由の顧客を増やす必要があるなら、SEOを2年目から始めても間に合いません。2年目に新しい商品や契約形態を展開するなら、販売管理システムやWebサイトの改修を1年目から始める必要があります。
中長期施策を1年目から始めても、1年目に完成後の成果がすべて出るわけではありません。年度計画には、公開時期や効果発生時期を考慮し、その年度に現実的に見込める成果だけを入れます。
事業目標を顧客数やマーケティングKPIへ変換する方法は、事業目標からマーケティング目標を設定する方法で解説しています。必要予算の総額を算定する方法は、中小企業のマーケティング予算の決め方を参照してください。
会社の中計はあるが部門目標がない場合はマーケティング部から提案する
会社全体の中計はあっても、各部門が何を担うのか決まっていない場合があります。この場合、部門長は数値が配分されるのを待つだけでなく、中計期間内でマーケティング部がどこまで成果を伸ばせるかを試算します。
会社が目指す売上・利益
↓
マーケティング部が担える顧客数・売上・重要KPI
↓
実現に必要な短期施策と中長期投資
↓
必要な予算・人員・工数・着手時期
↓
経営・経営企画へ提案
提案では、投資によって増やせる成果だけでなく、今年着手しなかった場合に何ができなくなるかも示します。部門別計画を作ることで、会社の中計を実行可能なマーケティング計画へ変換できます。
会社の中計がない場合はマーケティング部主導で案を作る
会社の中計がない場合、最初に経営や経営企画へ、会社として中期的に何を目指すのかを確認します。そのうえでマーケティング部が、市場、顧客、競合、営業、既存施策の情報を使い、複数年度の計画案を主導して作ることは可能です。
ただし、マーケティング部が会社の中計を独自に確定するわけではありません。将来の売上、利益、市場、商品、必要投資について仮説を作り、経営や関係部門と調整し、会社の意思として承認を得ます。
経営・経営企画へ中期方針を確認
↓
マーケティング部が市場と顧客から計画案を作成
↓
営業・商品・開発・財務等と実現可能性を調整
↓
経営が会社の中計または部門計画として承認
↓
承認された方針から年度別の施策・予算・工数へ落とす
経営から中計案の作成を求められれば、分析へ工数を使う正式な名目もできます。明確な依頼がない場合でも、部門長は作成の必要性を提言し、どこまでマーケティング部が担うのかを確認してから進めます。
承認のない中長期投資を善意だけで進めない
部門長が「会社に絶対必要だ」と確信するソリューションを見つけることがあります。しかし、必要性への確信と、予算や工数を使う権限は別です。
経営の承認を得ずに導入や開発を進めると、本人は会社の将来を考えたつもりでも、経営からは次のように見えることがあります。
- 指示された年度目標より自分の判断を優先した
- 承認された予算や人員を別の目的へ使った
- 関係部門へ未承認の負担を発生させた
- 導入後の費用や責任を会社へ残した
善意で始めた活動が、権限を越えた行動や会社への不利益と受け取られれば、部門長と経営の信頼関係を損ないます。会社のために動いた本人が善意を否定されたと感じ、退職へつながることもあります。
避けるための順序は明確です。
- 必要性、期待効果、費用、工数、今年着手すべき理由を経営へ示す
- 承認、保留、追加調査など、経営の判断を確認する
- 判断が得られない場合は、まず経営から求められた年度目標を満たす
- 自部門の裁量と余力で進められる分析や小規模検証まで行う
- 実証データを持って再度経営へ相談する
余力で進める場合も、有料契約、本番環境の変更、顧客データの利用、他部門への工数依頼など、会社としての承認が必要な行為まで独自に進めるものではありません。自部門の裁量範囲で事実を集め、経営が判断できる材料へ変えるところまでにします。
SEOやシステム整備を中長期投資として考える
中長期投資の具体例には、SEOなどの成長投資と、CRMやシステムなどの基盤投資があります。
SEOは効果発生までの期間から着手時期を逆算する
SEOは、社内に知識があれば、広告のような大きな媒体費を使わず、自部門の工数で進められる場合があります。
一方、企画、開発、公開、効果発生、効果成長まで時間がかかります。3年後のために大量のリソースを投じるかどうかは経営判断ですが、2年目の目標にSEO成果が必要なら、1年目から一定の工数を確保しなければ間に合いません。
デジタル広告とSEOのどちらを優先するかは、広告費と人件費を含むROI、検索需要、販売期間、LTVなどによって判断する必要があります。本記事ではチャネル比較へは広げず、効果発生時期から着手時期を決める例として扱います。
企業認知は原則として全社予算で判断する
会社名や企業ブランドを広く認知させる施策は、大規模な予算が必要になり、複数の事業やサービスへ効果が及びます。
そのため、一つのサービス部門だけで負担するのではなく、全社の経営判断と予算で扱うのが基本です。
サービス部門で実行する場合は、特定の顧客層を対象にした戦略PRなど、自部門の目標と予算で実行できる範囲を確認します。
筆者が最優先で勧めるのはマーケティングのCVと売上をつなぐ投資
筆者がマーケティング部門の中長期投資として最優先で勧めるのは、マーケティングで獲得したCVと、販売管理システムに記録された顧客・売上をつなぐ仕組みです。
理由は、CV1件の価値を「売上○円」と説明できない状態に、デジタルマーケティング部門と経営の断絶が起きやすいからです。
広告、SEO、メール等から問い合わせや資料請求を獲得しても、マーケティング側の管理がCVで終われば、その後どの程度顧客へ転化し、いくらの売上を作ったか分かりません。マーケティング部門はCV、CVR、UU等で成果を説明し、経営は売上、利益、投資回収で判断することになります。
両者に共通言語がなければ、「CVは増えたが、事業にどの程度貢献したのか」「予算を増やすと売上がいくら増えるのか」という会話の抽象度が高いままです。経営から見れば、重要そうではあるものの、増額・継続・縮小の根拠が分からない予算になります。
マーケティングで獲得したCVと顧客・売上をつなげれば、CV1件の売上価値、顧客転化率、購入商品、販売単価を共通言語にできます。施策の成果をデジタルマーケティング指標だけでなく、経営が判断できる事業成果として説明できるようになります。
前年踏襲のマーケティング予算を見直す方法でも、マーケティング活動をCVやUUだけでなく、売上や利益との関係で説明できる状態を作る必要性を解説しました。本記事では、その状態を作るために優先したい中長期投資として、CVと販売管理データの接続を位置づけます。
広告・SEO・メール等
↓
流入元を識別するパラメータ等をCV情報へ保存
↓
営業へリードを引き渡す
↓
顧客化・受注
↓
販売管理システムへ購入商品と売上を記録
↓
マーケティングで獲得したCVと顧客・売上を接続
必要なのは、最初から大規模なCRMを導入することではありません。流入元等の情報をCV時に残し、営業へ渡したリードと販売管理側の顧客を識別できるようにします。既存の販売管理システムで情報を保持・出力できない場合は、項目追加や更新も中長期投資の候補になります。
この接続ができれば、CV数だけでなく、マーケティングで獲得したリードの顧客転化、購入商品、販売単価を確認できます。マーケティング活動を売上への影響で考えるための基盤になります。
営業へ渡した後の顧客転化を追跡する
次に確認したいのは、マーケティングが営業へ渡したリードのその後です。
- 営業が対応したか
- 商談へ進んだか
- 顧客へ転化したか
- 顧客転化までにどの程度の期間がかかったか
- 購入した商品・サービスは何か
- 初回の販売単価はいくらか
- 失注や保留になった理由は何か
さらに、顧客へ転化した企業と転化しなかった企業を比べることで、顧客になりやすい相手の傾向を確認できます。
BtoBであれば、業種、企業規模、地域、担当部門・役職、抱えていた課題等です。BtoCであれば、年齢や家族構成等のデモグラフィック情報に加え、関心、価値観、購買動機等のサイコグラフィック情報も候補になります。
想定外の顧客層を施策改善へつなげる
顧客データを分析する目的は、当初決めたターゲットが正しいと確認することだけではありません。想定していなかった顧客層が、高い顧客転化率や販売単価を示すことがあります。
たとえば、中小企業向けに作った新商品が、大手企業の新規事業部門に購入されるケースです。
当初は中小企業向けに商品と訴求を設計
↓
CV後の顧客転化と売上を確認
↓
大手企業の新規事業部門で顧客転化が発生
↓
購入商品・販売単価・購入理由を確認
↓
新規事業部門向けの訴求を小規模に検証
有望な顧客層が見つかったら、中小企業向けに作っていた広告クリエイティブ、メルマガ、記事コンテンツ等を、その顧客層の課題や購入理由に合わせて作り替えます。その後は、CTRやCVRで反応の変化を確認し、顧客転化と売上にも変化があったかを改めて確認します。
すべての広告クリエイティブや記事を一件ずつ販売管理データへつなぐ必要はありません。詳細な接触履歴まで追跡しようとすると、運用負荷が高まり、分析基盤を維持すること自体が目的になりかねないからです。
実務では、まずCV後の顧客転化、購入商品、販売単価から有望な顧客層を見つけ、その顧客層に合わせて訴求を変更し、CTR・CVRで改善を確認する流れの方が継続しやすくなります。
サイトや販売管理システムは将来の施策を制約する
Webサイト、CMS、販売管理システム、社内・顧客向け管理システムは、現在動いている限り更新が先送りされやすい基盤です。
しかし、放置すると、新商品へ対応できない、データを連携できない、小さな改修にも時間がかかる、利用者のUXが低下するといった問題が生じます。
更新の判断では、単に古いかどうかではなく、2年後に実施したい施策へ対応できるかを確認します。
年度の着地見込みから投資配分を見直す
短期施策と中長期投資の配分は、年度計画を作った時点で固定するものではありません。部門長は、現在のまま進んだ場合の年度着地を継続的に予測します。
過去のトレンドと重要KPIから年度着地を予測する
会社によって使う指標は異なりますが、次のような情報から年度着地を見通せます。
- 過去5年間の売上推移
- 月別・季節別の傾向
- 取引社数や顧客数
- 販売単価
- 商談数と受注率
- 継続率や退会率
- 売上へ影響する重要KPI
精密な予測でなくても、「現在のまま進むと目標の何%程度で着地するか」を把握することはできます。
今期目標を追うか、翌年度以降へ投資するか判断する
着地予測が目標を下回る場合、次の選択肢を検討します。
- 追加の短期施策で今期目標を追う
- 今期の未達を受け入れ、中長期投資へ工数を移す
- 追加予算や人員を確保し、短期・中長期の両方を進める
「今年は負けても来年勝つ」という判断もあり得ます。ただし、部門長の独断で今期目標を捨てるのではなく、今期の着地と翌年度以降に得られる成果を示し、経営判断を求めます。
中長期施策を途中で止めた場合は、その施策によって将来達成する予定だったKPIが達成できなくなります。経営へ判断を求める際は、削減できる費用だけでなく、2年目、3年目の計画から失われる成果も示します。
突発案件が発生したときの優先順位を決める
年間計画を作っても、重大な問題や新しい施策候補は期中に発生します。
実際に判断を迫られるのは、重大なセキュリティ問題が発生した、新しいマーケティングソリューションが登場した、セミナーで自社に使えそうな方法を見つけた、といった場面です。
新しいという理由だけで既存タスクを止めるのではなく、次の観点から比較します。
- 自社の重要KPIへどの程度影響するか
- 顧客の信頼を損なう問題か
- 顧客のUXを改善または悪化させるか
- 現在の年度着地へどの程度影響するか
- 2年目以降の施策を制約するか
- 必要な予算と工数を確保できるか
重大な脆弱性のように顧客の信頼へ直結する問題は、計画済みの施策より優先せざるを得ません。一方、期待効果が不明確な新しいツールや施策は、重要度の高い既存タスクを止めてまで実施する必要があるかを確認します。
余力とは、偶然空いた時間だけではありません。年度着地と各タスクの重要度を比較し、優先順位を入れ替えることで作るものでもあります。
役職によって判断する時間軸を分ける
全員が将来へ目を向けることは望ましいものの、全員が中長期施策を優先すると、現在の仕事が進みません。
役職によって、主に責任を持つ時間軸を分けます。
| 役割 | 主に見る期間 | 主な責任 |
|---|---|---|
| メンバー | 今月・現在のタスク | 担当業務と月次KPIを遂行する |
| リーダー・マネージャー | 四半期 | 月次進捗を調整し、四半期目標へ着地させる |
| 部門長 | 年度・翌年度以降 | 年度着地と将来投資を判断する |
| 経営 | 全社の中期 | 会社全体の成長、利益、投資方針を決める |
メンバーが将来の問題や改善案に気づくことは重要です。ただし、「将来必要になる」という理由で現在の担当業務を独自に止めるのではなく、リーダーや部門長へ提案します。
リーダーや部門長が、四半期や年度、中計の目標と比較し、今期へ入れるか、翌年度の候補として残すかを判断します。
問題は短期志向そのものではありません。組織の上位役職まで今月や四半期の数字しか見ず、翌年度以降の準備を判断する人がいないことです。
短期施策と中長期投資の予算配分を決める手順
最後に、短期施策と中長期投資を配分する手順を整理します。
1.中計と部門別目標の有無を確認する
会社の中期経営計画と、自部門へ割り当てられた複数年度の売上、顧客数、重要KPIがあるかを確認します。
2.中計の実現可能性を実行部門が検証する
市場需要、顧客数、営業の処理能力、準備期間、予算、人員、工数を確認します。計画上の数値があるだけで、実行できるとは判断しません。
3.現在のまま進んだ場合の年度着地を予測する
過去のトレンドと重要KPIから、短期施策を追加しない場合の年度着地を見積もります。
4.2年目以降の目標と必要KPIを確認する
2年目、3年目に自部門が担う成果と、その達成に必要なSEO、顧客育成、基盤整備などを整理します。
5.施策の準備期間と効果発生時期を整理する
各施策について、準備開始、リリース、効果発生、効果成長の時期を確認します。将来の成果から逆算し、今年着手しなければならない施策を特定します。
6.経営へ提示する選択肢を作る
短期施策を優先する場合、中長期投資を優先する場合、追加リソースで両立する場合について、年度着地、将来KPI、必要予算・工数を示します。
7.経営判断を受けて予算と工数へ落とす
経営が決めた方針を、具体的な施策、予算、部門別工数、担当者、実施時期へ落とします。四半期ごとに年度着地を更新し、必要に応じて優先順位を見直します。
まとめ
短期施策と中長期投資に、すべての会社で使える共通の適正比率はありません。
「短期7:中長期3」のような配分は、部門長が一般論から独自に決めるものではなく、今期の売上・利益と翌年度以降の成長をどう優先するかという経営判断です。
部門長は、会社の中計、部門別目標、中計の実現可能性、年度着地を確認し、短期優先、中長期優先、追加リソースによる両立の選択肢を経営へ提示します。
計画が不足している場合は、マーケティング部が経営・経営企画や関係部門と調整し、自部門の複数年度数値や中計案を作ります。ただし、承認前の中長期投資を善意だけで進めず、経営の判断を確認します。判断が得られない場合は、経営から求められた年度目標を満たしたうえで、自部門の裁量と余力による分析・小規模検証まで進め、実証データを持って再度相談します。
短期施策は今期の成果を作り、中長期投資は翌年度以降の成長と施策実行基盤を作ります。どちらかを固定比率で選ぶのではなく、会社がどの年度の成果を優先するのかを明確にし、必要な予算と工数を配置することが重要です。
本記事の文章・表・図解・グラフは、Skill Business Architecture Labが独自に編集・作成しています。引用・紹介する場合は、引用箇所が分かる形で、記事名・サイト名・記事URLをご記載ください。


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