「マーケティング予算は、売上の何%にすればよいか」
来期の予算を作るとき、このような基準を探したくなるかもしれません。しかし、売上に一定の比率を掛けても、事業目標を達成できる予算になるとは限りません。
マーケティング予算は、事業目標を達成するために必要な顧客数や商談数を算出し、その実現に必要な施策、人員、外注、広告、ツールなどの費用を積み上げて決めます。
事業目標
↓
必要な売上・利益
↓
必要な販売単価・顧客数
↓
営業・既存顧客・マーケティングが担う増加分
↓
必要なCV・商談・施策
↓
マーケティング予算
↓
利益・資金繰りなどの財務制約と調整
売上比率は、算定後の予算が他社や過去と比べて極端ではないかを確認する参考値にはなります。予算そのものを決める答えではありません。
本記事では、中小企業が事業目標からマーケティング予算を算定する手順を、具体例と計算式を使って解説します。
マーケティング予算とは何に使う費用か
マーケティング予算というと、広告費を思い浮かべる人が多いでしょう。しかし、広告費はマーケティング予算の一部です。
事業目標を達成するために顧客との接点を作り、購入や契約につなげるまでには、次のような費用が発生します。
| 費用区分 | 主な内容 |
|---|---|
| 広告費 | 検索広告、SNS広告、動画広告、媒体出稿など |
| 制作費 | Webサイト、LP、広告クリエイティブ、記事、動画など |
| 調査・分析費 | 顧客調査、競合調査、アクセス解析など |
| ツール費 | CRM、MA、アクセス解析、ヒートマップなど |
| 人件費 | マーケティング担当者、インサイドセールスなど |
| 外注費 | 広告運用、SEO、制作、コンサルティングなど |
| 販促費 | 展示会、セミナー、資料、キャンペーンなど |
会計上どの科目へ計上するかは会社によって異なります。本記事でいうマーケティング予算は、勘定科目ではなく、マーケティング目標を実現するために必要な費用の総額です。
広告費だけを予算化すると、広告から流入した見込み顧客を受け止めるWebサイトや営業体制が不足し、費用を増やしたのに顧客が増えないことがあります。予算は施策単位ではなく、顧客獲得までの流れ全体で捉える必要があります。
マーケティング予算の主な決め方
マーケティング予算の決め方は、大きく4つに整理できます。
| 決め方 | 算定方法 | 利点 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 売上比率 | 売上高に一定比率を掛ける | 簡単で比較しやすい | 目標達成との因果関係が弱い |
| 前年実績 | 前年予算を基準に増減する | 実績があり説明しやすい | 前年の問題や前提まで引き継ぎやすい |
| 競合参考 | 同業他社の水準を参考にする | 市場感を把握できる | 事業構造や成長段階の違いを反映しにくい |
| 事業目標から逆算 | 必要な成果と施策から積み上げる | 予算と事業目標を接続できる | 試算にデータと部門間調整が必要 |
売上比率、前年実績、競合水準にも使い道はあります。ただし、これらは主に比較や妥当性確認の基準です。
筆者は、最初に事業目標から必要額を算定し、その後に売上比率や前年実績と比較する順番が適切だと考えています。
前年予算をどう見直すかについては、別記事で詳しく扱います。本記事では、ゼロから必要予算を算定する方法に絞ります。
マーケティング予算を売上の何%で決めない
同じ売上規模の会社でも、必要なマーケティング予算は異なります。
- 既存顧客による継続売上が多いか
- 新規顧客をどの程度増やす必要があるか
- 営業だけで顧客を増やせるか
- 商品単価や粗利率がどの程度か
- 市場での認知があるか
- 新商品や新市場へ投資する段階か
- Webサイトや顧客データなどの基盤があるか
例えば、売上10億円の5%を予算とすれば5,000万円です。しかし、必要な新規顧客が20社なのか200社なのかによって、必要額は大きく変わります。
また、同じ5,000万円でも、すでにWebサイトやCRMが整っている会社と、それらを新たに作る会社では広告へ使える金額が異なります。
したがって、「売上の何%か」は次のような確認には使えても、予算の起点にはなりません。
- 過去と比較して急増・急減していないか
- 同業他社と比べて極端な水準ではないか
- 予算総額を経営へ説明するときの補助線になるか
比率から必要額を決めるのではなく、必要額を算定した後に比率へ直して確認します。
マーケティング予算は事業目標から算定する
予算算定の起点は、会社が実現したい売上や利益などの事業目標です。
まず、事業目標からマーケティング目標を設定する方法で解説したように、事業目標と現状の事業構造で到達できる見込みとの差を明らかにします。その差を、商品、営業、既存顧客、マーケティングなどが担う変化へ分けます。
マーケティング予算は、マーケティングが担う変化を実現するための費用です。
マーケティング予算
=マーケティング目標の達成に必要な広告費
+制作費
+ツール費
+人件費
+外注費
+その他の実行費用
先に「広告費は3,000万円まで」と決めて目標を合わせるのではありません。必要な顧客数やCV数から施策と費用を算定し、財務上の制約と調整します。
売上目標を販売単価と顧客数へ分解する
売上を単純化すると、次の式で表せます。
売上=平均販売単価×顧客数
実際には購入回数、継続率、商品構成なども影響します。継続課金型の事業であれば契約期間や解約率、小売であれば購入頻度も加えて分解します。
それでも、最初に「単価を上げるのか」「顧客数を増やすのか」を分けることで、売上目標を具体的な検討へ移せます。
販売単価をどこまで上げられるか試算する
販売単価を上げる方法には、値上げ、高価格帯の商品、新商品、アップセル、クロスセルなどがあります。
ただし、商品開発や営業部門に試算を依頼すると、確実性を重視するため、大胆な売上増加を見込みにくいことがあります。単価向上だけで売上目標との差を埋められなければ、残りは顧客数の増加で補う必要があります。
必要な顧客数を算出する
目標売上と平均販売単価から、必要な顧客数を算出します。
必要顧客数=目標売上÷平均販売単価
そのうえで、現在の顧客数との差を出します。
追加で必要な顧客数=必要顧客数-既存顧客の継続見込み
新規顧客だけでなく、既存顧客の離反、契約更新、追加購入も反映します。新規獲得数だけを見て解約や失注を無視すると、売上計画と顧客計画が一致しません。
営業・既存顧客・マーケティングで増やせる数を試算する
追加で必要な顧客数が分かったら、各部門がどこまで担えるかを積み上げます。
| 増加要因 | 確認する内容 |
|---|---|
| 営業 | 訪問数、商談数、受注率、担当者数から増やせる顧客数 |
| 既存顧客 | 継続、再購入、アップセル、クロスセルによる増加 |
| 既存広告 | 現在の媒体、CPA、予算上限から増やせる顧客数 |
| その他のマーケティング | SEO、セミナー、展示会、紹介施策などによる増加 |
ここで注意したいのが二重計上です。
例えば、マーケティングが作った商談を営業の受注見込みにも、マーケティングの獲得見込みにも含めると、同じ顧客を2回数えることになります。「リード創出」「商談化」「受注」のどこを各部門の成果とするかを決めてください。
営業が増やせる顧客数と、既存施策で増やせる顧客数を保守的に積み上げても、事業目標に届かないことは珍しくありません。その不足分が、マーケティングに求められる追加成果の起点です。
広告予算を増やしてもCVは同じ割合では増えない
既存広告に実績があるなら、予算試算に活用すべきです。ただし、現在の平均CPAをそのまま使い、広告費を2倍にすればCVも2倍になると考えるのは危険です。
成果の出やすい検索語句や顧客層から先に配信している場合、予算を増やすほど対象が広がり、追加分のCPAが悪化することがあります。
例えば、次の試算を考えます。
| 広告費 | 獲得CV数 | 平均CPA | 追加500万円で増えたCV | 追加分のCPA |
|---|---|---|---|---|
| 1,000万円 | 100件 | 10万円 | ― | ― |
| 1,500万円 | 140件 | 約10.7万円 | 40件 | 12.5万円 |
| 2,000万円 | 170件 | 約11.8万円 | 30件 | 約16.7万円 |
平均CPAは広告費全体をCV数で割った数値です。一方、追加分のCPAは、増額した費用を増加したCV数で割ります。
平均CPA=広告費総額÷CV総数
追加分のCPA=追加広告費÷追加CV数
予算増額の判断で重要なのは、現在の平均CPAだけではなく追加分のCPAです。
上の数値は、広告費とCVが比例しないことを説明するための例であり、すべての広告に当てはまる基準ではありません。筆者は実務上、広告予算を2倍にしたときのCVを、保守的には「良くても1.5倍程度」と置くことがありますが、これも媒体、商材、市場規模、運用状況によって大きく変わります。
Google広告では、Performance Plannerや予算・入札シミュレーターを使い、予算変更によるCVやCPAの変化を予測できます。ただし、予測は過去データ、直近のオークション、季節性などに基づく試算です。将来の成果を保証するものではありません。
媒体側の予測を得にくい施策では、次の順で根拠を集めます。
- 自社の過去実績
- 類似商品・類似顧客での実績
- 媒体社や支援会社が持つ比較可能な事例
- 小規模な検証による実測値
十分な根拠がない場合、精密に見える数字を作るより、検証予算と見直し時点を設定するほうが現実的です。
必要顧客数からマーケティング予算を算定する
マーケティングが担う新規顧客数が決まったら、受注率を使って必要な商談数やCV数へ戻します。
例えば、マーケティング経由で30社の新規顧客が必要で、CVから顧客への転換率が10%なら、必要なCVは300件です。
必要CV数=必要顧客数÷CVから顧客への転換率
300件=30社÷10%
予測CPAが12万円なら、必要な広告費は3,600万円です。
必要広告費=必要CV数×予測CPA
3,600万円=300件×12万円
ここで終わりではありません。広告を受け止めるLPの制作、計測環境、運用費、商談化に必要なツールや担当者なども加えます。
必要CPAと許容CPAを分ける
予算計画では、少なくとも次の2つのCPAを区別します。
| 指標 | 意味 | 算定例 |
|---|---|---|
| 必要CPA | 計画上、必要CV数を予算内で獲得するために求められるCPA | 広告予算÷必要CV数 |
| 許容CPA | 1件のCVに使っても採算や資金繰りを維持できる上限 | 顧客粗利、受注率、回収期間などから算定 |
例えば、使える広告予算が3,000万円で必要CVが300件なら、必要CPAは10万円です。
必要CPA=3,000万円÷300件=10万円
しかし、顧客1社から得られる粗利やCVからの受注率を考えると、許容CPAが8万円かもしれません。この場合、10万円で獲得できても採算条件を満たしません。
反対に、許容CPAが15万円でも、現在の運用で18万円かかるなら、現状のままでは予算を増やせません。
予測CPA≦必要CPA
かつ
予測CPA≦許容CPA
この2つを満たせるか確認することで、「目標件数には届くが利益が残らない」「採算は合うが必要件数を獲得できない」という違いが見えます。
初期費用と継続費用を分ける
同じ施策でも、初年度と翌年度以降では費用が異なります。
- LPやWebサイトの初期制作費
- CRMやMAの導入費
- 広告やコンテンツの継続運用費
- ツールの月額利用料
- 社内担当者の人件費
初期費用と月次費用を分け、さらに施策がいつ開始できるかを反映します。年度後半に開始する施策へ12カ月分の成果を見込んではいけません。
必要予算を財務上の制約と調整する
事業目標から算定した金額が、そのまま承認できるとは限りません。
会社には、最低限確保すべき利益率、運転資金、借入返済、株主への還元方針などの制約があります。マーケティング投資が回収されるまで時間がかかる場合は、最終的に利益が出る計画でも、途中で資金が不足する可能性があります。
確認すべきなのは、主に次の項目です。
| 財務上の確認 | 主な問い |
|---|---|
| 利益 | 投資後も死守すべき利益額・利益率を保てるか |
| 粗利 | 顧客獲得後に十分な粗利が残るか |
| 回収期間 | 投資額を何カ月で回収できるか |
| 資金繰り | 支払いが先行しても現金を確保できるか |
| 下振れ耐性 | CVや受注率が計画を下回っても事業を維持できるか |
必要予算が財務上の上限を超える場合、現場へ一方的な効率改善を求めて数字を合わせても、計画の実現可能性は高まりません。
経営、財務、マーケティングで、次の選択肢を検討します。
- 事業目標の達成時期を変更する
- 投資を段階化する
- 他の予算を見直す
- 必要な資金を調達する
- 株主還元や利益計画を調整する
- 目標達成に必要な事業構造そのものを見直す
最後の「事業構造を見直す」方法には、LPやフォームの改善、営業プロセスの見直し、CRMの活用、インサイドセールスの強化などがあります。これは施策を増やす前の判断に関わるため、別記事で詳しく解説します。
マーケティング予算の算定例
ここまでの流れを、一つの例で整理します。
前提条件
| 項目 | 数値 |
|---|---|
| 来期の売上増加目標 | 8,000万円 |
| 単価向上・既存顧客・営業で見込める増加 | 5,000万円 |
| マーケティングが担う売上増加 | 3,000万円 |
| 新規顧客1社の初年度平均売上 | 100万円 |
| CVから顧客への転換率 | 10% |
| 増額後の予測CPA | 10万円 |
1.必要な新規顧客数を算出する
3,000万円÷100万円=30社
2.必要なCV数を算出する
30社÷10%=300件
3.必要な広告費を算出する
300件×10万円=3,000万円
4.広告以外の費用を加える
| 費用 | 金額 |
|---|---|
| 広告費 | 3,000万円 |
| LP・フォーム改修 | 300万円 |
| 広告運用・制作 | 360万円 |
| CRM・計測ツール | 120万円 |
| 合計 | 3,780万円 |
この例では、必要なマーケティング予算は3,780万円です。
ただし、3,780万円を使えば必ず30社を獲得できるという意味ではありません。予測CPA、受注率、顧客単価のいずれかが悪化すれば、必要額は増えます。
また、3,000万円の売上増加に3,780万円を使うことだけを見れば、初年度は投資額のほうが大きく見えます。継続契約によって翌年度以降も粗利が生まれるのか、単年度で回収する必要があるのかによって判断は変わります。
必要な成果と費用を数字でつなぐことで、経営会議ではじめて、増額、段階投資、目標時期の変更、構造変更などを比較できます。
マーケティング予算を決めるためのチェックリスト
| 確認項目 | 確認する内容 |
|---|---|
| 事業目標 | 売上・利益の目標額と期限が明確か |
| 売上構造 | 単価、顧客数、購入回数、継続率へ分解したか |
| 現状見込み | 現在の営業・商品・既存顧客で到達できる数値を出したか |
| 部門責任 | マーケティングが担う売上・顧客数を決めたか |
| 顧客転換 | CV、商談、受注の転換率を確認したか |
| 広告効率 | 増額後のCPAを現在の平均CPAと分けて考えたか |
| 採算 | 必要CPAと許容CPAの両方を確認したか |
| 費用範囲 | 広告以外の制作、人員、外注、ツールを含めたか |
| 時期 | 施策の開始時期と年度内の寄与月数を反映したか |
| 財務制約 | 利益率、回収期間、資金繰り、下振れを確認したか |
| 見直し条件 | いつ、どの数値で計画を修正するか決めたか |
この項目が埋まっていなければ、予算額が決まっていても、事業目標と接続した実行計画にはなっていません。
マーケティング予算に関するよくある質問
マーケティング予算は売上の何%が目安ですか
業種、粗利率、成長段階、既存顧客比率、営業体制によって必要額が異なるため、すべての会社に共通する適正比率はありません。事業目標から必要額を算定した後、売上比率を過去や同業他社との比較に使います。
広告費は前年のCPAから計算してよいですか
最初の参考値にはできます。ただし、予算を増やすと追加分のCPAが悪化する可能性があります。現在の平均CPAをそのまま増額後の全予算へ適用せず、媒体の予測、過去の増額実績、小規模な検証結果を使って補正してください。
売上目標から必要な広告費を計算する式はありますか
単純化すると、次の順で算定できます。
必要顧客数=マーケティングが担う売上÷顧客単価
必要CV数=必要顧客数÷CVから顧客への転換率
必要広告費=必要CV数×増額後の予測CPA
実際の予算には、制作費、運用費、人件費、ツール費なども加えます。
予算を算定しても事業目標に届かない場合はどうしますか
既存施策の増額だけで届かない場合は、目標時期や投資段階を調整するか、顧客獲得の構造を変える必要があります。営業プロセス、CVから受注までの転換率、LPやフォーム、商品・価格など、成果を制約している箇所を特定します。
マーケティング予算に人件費を含めますか
経営判断に使う予算では、施策に必要な社内人件費も把握したほうが実態に近づきます。会計上の科目とは分けて、少なくとも必要工数と担当者を記録してください。
まとめ|必要予算を算定してから財務制約と調整する
マーケティング予算は、売上に一定の比率を掛けて決めるものではありません。
最初に事業目標を販売単価と顧客数へ分解し、現在の営業、商品、既存顧客でどこまで到達できるかを試算します。そのうえで、マーケティングが担う顧客数、必要なCV数、増額後のCPAをつなぎ、広告費とその他の実行費用を積み上げます。
事業目標
↓
マーケティングが担う売上・顧客数
↓
必要なCV・商談数
↓
増額後のCPA・転換率
↓
広告・制作・人員・外注・ツール費
↓
必要なマーケティング予算
↓
利益・回収期間・資金繰りとの調整
売上比率や前年実績は、算定結果を確認する比較材料です。必要な成果と費用を結びつけて初めて、予算を増やすのか、目標時期を変えるのか、事業構造を変えるのかを経営判断できます。


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