デジタルスキル標準2.0の大きな変更点は、DX人材に「データマネジメント」が加わり、5類型から6類型になったことです。 ただし、今回の改訂は分類を一つ増やしただけではありません。事業変革を担う人材の役割や、AIを実際の業務で使い続けるためのスキルも見直されています。
デジタルスキル標準(DSS)は、経済産業省とIPAが示す、個人の学習や企業の採用・育成の指針です。2026年4月16日に公開されたver.2.0では、「AIや分析を使う人」に加え、その前提となるデータを整え、使える状態を維持する仕事が明確になりました。
例えば、受注を増やすために過去の営業データを分析しようとしても、顧客名が重複し、受注の入力基準が部門ごとに違っていたら、分析の前に確認と修正が必要です。その仕事は誰が担い、どうすれば翌月も同じ問題を繰り返さずに済むのでしょうか。
この記事では主な変更点を整理し、新設されたデータマネジメントの3ロールを、営業改革の例で具体的に説明します。
デジタルスキル標準2.0の主な変更点一覧
デジタルスキル標準には、全てのビジネスパーソンに向けた「DXリテラシー標準」と、DXを推進する人材の役割・スキルを定めた「DX推進スキル標準」があります。6類型への変更は後者ですが、今回の改訂ではリテラシー標準にも追記・修正があります。
| 変更箇所 | 従来の整理 | DSS2.0で変わったこと |
|---|---|---|
| DX人材の類型 | 5類型。データエンジニアはデータサイエンティスト類型に含まれていた | データマネジメントを新設して6類型へ。データエンジニアを移管し、3ロールを定義 |
| ビジネスアーキテクト | 新事業開発、既存事業の高度化、社内業務の高度化・効率化という取組領域で3ロールに区分 | ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリスト、プロダクトマネージャーの3ロールへ再定義 |
| デザイナー | グラフィックデザイナーを含むロール構成 | グラフィックデザイナーを削除し、価値や使い方を伝えるコミュニケーションデザイナーを新設 |
| データ・AI関連スキル | 「データ活用」カテゴリーで整理 | 「データ整備・活用」へ改め、データマネジメントの6スキルを新設。AI実装・運用、AIガバナンス等も追加 |
| デザインの活用 | デザイン思考やアジャイルな働き方などを提示 | デザインマネジメント実践に関するスキル・説明を追加し、リテラシー標準や補足資料にも反映 |
| ロール別のスキル重要度 | 従来の役割とスキル項目に対応した重要度 | 追加・変更に合わせ、既存ロールを含めて全般的に見直し |
採用・研修の担当者が確認したいのは、新しい類型名だけではありません。同じ職種名を使っていても、任せる仕事や必要なスキルを見直す余地があるということです。
DX人材は5類型から6類型へ|新しい全体像
6類型の中でデータマネジメントがどこを担うのかを、「営業案件の優先順位を見直して受注を増やす」という例で整理します。
| 人材類型 | 主に担う役割 | 営業改革なら、どんな仕事か |
|---|---|---|
| ビジネスアーキテクト | 事業や業務の変革を設計し、関係者を動かす | どの顧客への提案を増やすか、営業の動き方や判断基準を決める |
| デザイナー | 顧客・利用者の視点から体験や伝え方を設計する | 営業が使いやすい画面や、顧客が迷わず相談できる導線を設計する |
| データサイエンティスト | データ分析やAIを、業務改善・価値創出に結び付ける | 受注しやすい案件の特徴を分析し、優先順位の付け方を検証する |
| データマネジメント | データを安全・正確に使い続けられる状態にする | 顧客ID、受注の定義、入力ルール、データ連携や利用範囲を整える |
| ソフトウェアエンジニア | システムを設計・開発し、運用・改善する | 案件管理と売上管理をつなぎ、営業が利用する機能を実装する |
| サイバーセキュリティ | デジタル環境のリスクを抑える対策を設計・運用する | 顧客情報への権限や認証、監視、事故対応を設計する |
ここでの類型は大きな役割の分類です。その中を具体的な仕事に分けたものが「ロール」で、役職の上下や資格の等級を表すものではありません。新設されたデータマネジメント類型には、三つのロールが置かれています。
データマネジメントが新設された理由|データがあっても使えない問題
営業部門では同じ会社が「株式会社○○」と「○○(株)」で登録され、担当者によって「受注」を入力するタイミングも違う。案件管理には商談の履歴があり、売上管理には取引金額があるものの、両者を同じ顧客として結び付けられない。こうした状態では、「どの顧客への提案を増やせばよいか」を調べるだけでも手間がかかります。
分析担当者が一度きれいに直せば、その月の集計はできるかもしれません。しかし、入力方法やデータ連携が変わらなければ、翌月も同じ修正が必要です。AIに参照させる場合も、古い情報や誤った対応関係をそのまま渡す問題は残ります。
そこで必要になるのが、データの意味・品質・利用ルールを整え、各部門が継続的に使えるようにする仕事です。IPAも、データやAIによる価値創出の前提として、精度や整合性、利用ルールの遵守などの重要性を示しています。
データサイエンティストが「データから何を判断し、どう成果につなげるか」を担うのに対し、データマネジメントは「その判断に使えるデータを、どう用意し続けるか」を支えます。 単なるファイル保管や、一度きりのデータ修正にとどまらない役割です。
データマネジメントの3ロール|仕事と成果物はどう違う?
3ロールは、データスチュワード、データエンジニア、データアーキテクトです。同じ顧客情報を扱っていても、担う仕事が異なります。
| ロール | 主に担う仕事 | 営業改革で用意・運用するものの例 |
|---|---|---|
| データスチュワード | 業務部門とデータのルールを整え、品質と適切な利用を現場に定着させる | 顧客・受注の定義、入力・修正ルール、品質確認と改善の運用 |
| データエンジニア | データを収集・加工・連携し、必要な品質とタイミングで提供する | 顧客IDを対応付ける処理、案件・売上情報の連携、更新エラーの検知 |
| データアーキテクト | 組織全体でデータをどう保管・流通・活用するかを設計する | 顧客・案件・契約の関係図、データの保管先と連携方針、運用の全体設計 |
データスチュワード|データのルールを、現場で使える状態にする
例えば「受注日」は、顧客が口頭で了承した日なのか、契約が成立した日なのか。担当者によって解釈が違えば、同じ列を集計しても意味のそろった数字にはなりません。
データスチュワードは、こうした定義を営業部門などと整理し、誰が入力・修正するか、誤りが見つかったらどう直すかを運用に落とし込みます。営業と経理で必要な日付が異なるなら、無理に一つへ統一するのではなく、受注日と売上計上日を区別して持つ、といった整理も必要です。
重要なのは、ルールを文書にして終わらせないことです。入力漏れや重複が繰り返される原因を確認し、現場への説明、入力方法の改善、品質の確認を続けます。業務の意味を知る人と、データを使う人の間をつなぐ役割なので、システム操作の知識だけでは担い切れません。
データエンジニア|分析に使うデータを、安定して届ける
「同じ顧客の案件と売上をつなぐ」と決まっても、別々のシステムから毎回手作業で取り出して結合していては、集計の負担が残ります。
データエンジニアは、案件管理・売上管理などからデータを集め、形式をそろえ、必要な相手へ提供する仕組みを作ります。顧客IDの対応付け、日付形式の変換、重複や欠損の処理、更新が失敗した際の検知と復旧などが、営業改革での具体的な仕事になります。
ただし、システム上で結合できれば完了ではありません。「受注」の意味や除外する案件の条件はデータスチュワードと確認し、全体の設計はデータアーキテクトと合わせます。必要なデータが、必要な品質とタイミングで届くことが成果です。
このロールは今回初めて登場したわけではありません。従来はデータサイエンティスト類型に含まれていたものが、DSS2.0ではデータマネジメント類型へ移っています。
データアーキテクト|会社全体のデータのつながりを設計する
営業部門と経理部門がそれぞれ連携を作るだけでは、取引先の住所を直す場所が複数できたり、部門ごとに別の顧客IDが増えたりすることがあります。後から新しいシステムを追加するたびに、つなぎ直しが必要になるかもしれません。
データアーキテクトは、会社全体を見て、どの情報をどこで管理し、顧客・案件・契約をどう関連付け、誰にどう提供するかを設計します。営業改革なら、共通の顧客IDをどう扱うか、顧客情報の正本をどこに置くか、更新を各システムへどう伝えるか、といった方針が対象です。
作った構造を固定する仕事でもありません。事業や利用目的が変わったときに、データの流れや運用を見直します。個々の連携処理を作るデータエンジニアに対し、組織全体で無理なく利用し続けられる構造を考える役割と捉えると、違いが見えます。
三つのロールが連携して、分析できる状態を維持する
顧客情報の重複を直す場面なら、データスチュワードが現場と「同じ顧客と判断する条件」を詰め、データアーキテクトが共通IDと各システムの関係を設計し、データエンジニアが対応付けや更新処理を実装します。運用中に例外が見つかれば、ルールと仕組みの両方を見直します。
そのうえで、データサイエンティストが受注しやすい案件の特徴を分析し、営業が提案の優先順位を変える。データマネジメントの成果は、整備した件数だけでなく、現場がデータを使って判断できる状態が続くことにあります。
ビジネスアーキテクト・デザイナー・AI関連スキルはどう変わった?
ビジネスアーキテクトは、取組領域による区分から3ロールへ再整理
従来の3ロールは、新事業を作るのか、既存事業を高度化するのか、社内業務を改善するのかという区分でした。DSS2.0では、ビジネスアーキテクト、ビジネスアナリスト、プロダクトマネージャーに再定義されています。
類型名と同じ名称の「ビジネスアーキテクト」は、経営戦略を事業の構造や変革の計画へ落とし込みます。「ビジネスアナリスト」は業務・組織・システムの課題や要求を整理し、実装する側へ伝えます。「プロダクトマネージャー」は製品・サービスの企画から継続改善までを担い、成果に責任を持つ役割です。
営業改革で考えるなら、何を変えて受注を増やすかという構想、現場から聞いた要求の具体化、実際に使う仕組みの改善と成果管理を分けて確認できます。名称の変更を、担当者の肩書を置き換えるだけで済ませないことが大切です。
デザイナーは、製品・サービスの価値を伝える役割を明確化
デザイナー類型では、グラフィックデザイナーが削除され、コミュニケーションデザイナーが新設されました。これは、グラフィック制作の仕事が不要になったという意味ではありません。製品・サービスの意義や使い方を伝える、より広いコミュニケーションの役割として整理されています。
営業改革なら、画面を使いやすくする仕事に加え、顧客がサービスの価値を理解して相談できる案内や、営業担当が新しい仕組みの使い方を理解できる説明も検討対象になります。
AIは、導入後の実装・運用・ガバナンスまで見る
生成AIに関する記載は、以前の改訂にもありました。DSS2.0を「初めてAIが追加された版」と捉えるのは適切ではありません。今回のポイントは、AI実装・運用やAIガバナンスなど、業務で活用し続けるためのスキルが追加されたことです。
例えばAIが営業案件を推薦する仕組みなら、画面を用意するだけでなく、推薦結果をどう評価するか、データやモデルの変更で品質が落ちていないか、誰が利用ルールを決めるかまで仕事になります。研修も、AIツールの使い方だけでなく、担当する運用上の判断に合わせて選ぶ必要があります。
デザインマネジメントと、ロール別のスキル重要度も見直し
デザインマネジメント実践は、見た目を整える技術の話に限りません。顧客や現場の状況を理解し、目指す姿を構想し、関係者へ伝え、試して改善する力を、組織の変革に生かす考え方です。DSS2.0では関連スキルの追加に加え、DXリテラシー標準への追記・修正や補足資料の追加も行われています。
営業の入力負担を減らす場合も、経営だけで理想の画面を決めるより、現場の仕事を観察し、試作品を使ってもらい、改善するほうが課題を具体化できます。
また、ロールごとのスキル重要度も見直されています。既存の研修やスキルマップを使う企業は、項目があるかどうかだけでなく、担当ロールにどの程度の実践力が求められるかも確認したいところです。
DSS2.0を自社の採用・育成に生かすには
最初に見直したいのは、社内の職種名よりも、今回明確になった仕事の担い手です。営業データを使う企業なら、データの定義と入力ルールを管理する人、連携の仕組みを作る人、全体の構造を設計する人が誰かを確認します。
既存の営業企画や情報システム部門が担っている仕事もあるはずです。その場合は新しい肩書を増やすより、必要な権限・技能・時間が確保されているかを確かめます。担当がいない仕事や、兼務では処理し切れない仕事が分かれば、採用・育成・外部支援で補う対象が具体的になります。
研修計画も、全員に同じ内容を追加する必要はありません。現場とデータの定義をそろえる担当と、データ連携を実装する担当では、身に付けるべき内容が異なります。DSS2.0のロールと必要スキルを、実際に任せる仕事に照らして選びます。
DX人材の役割を既存組織へ割り振る考え方は、DX人材を組織で機能させる方法で解説しています。同記事は5類型時点の整理ですが、一人の専門家に仕事を集中させず、必要な機能を各部門で担うという考え方は、6類型を活用するときにも役立ちます。
デジタルスキル標準2.0についてよくある質問
5類型を基にした研修計画は使えなくなりますか?
既存の知識や研修が一律に不要になるわけではありません。新設・再定義されたロールと、スキル項目・重要度の差を確認し、自社の担当業務に必要な部分を補います。特にデータ整備、AIの運用、関係者との要求整理が既存計画に含まれているかを確認すると、見直す箇所を絞りやすくなります。
データマネジメントの3ロールは、3人採用するという意味ですか?
仕事の役割を分けたもので、必ず3人の専任者を置くという指定ではありません。兼務や外部支援も選択肢です。ただし、一人が複数のロールを担う場合も、ルールの定着、技術的な実装、全体設計のいずれかが抜け落ちていないかを確認する必要があります。
データサイエンティストとデータマネジメントは兼任できますか?
兼任は可能です。ただ、分析の技能があることと、部門間で入力ルールを調整したり、連携を運用したりできることは別です。仕事の範囲と必要な時間・権限を確認して分担します。
変更点を、いま担当が曖昧な仕事の確認に使う
DSS2.0では、データマネジメントの新設だけでなく、事業変革の役割、デザインの活用、AIの実装・運用なども見直されました。類型名を覚えるだけでは、採用や育成の判断は変わりません。
「分析担当が、毎月データ修正に追われている」「入力ルールを決めても現場に定着しない」「新しいシステムを増やすたびに連携が複雑になる」。こうした問題があるなら、3ロールの整理を使うことで、不足している仕事を具体的に捉えられます。
新しい標準を、自社に新しい職種を増やすためだけに使う必要はありません。誰かの善意や手作業で支えていた仕事を明確にし、継続して担える体制へ変える。それが、変更点を実務へ生かす一つの方法です。
参考資料
- IPA:デジタルスキル標準ver.2.0を公開 — 2026年4月16日発表。改訂の背景、主要な変更点、旧ロールからの変更。
- IPA:デジタルスキル標準ver.2.0(PDF) — PDF内のページ表記で、p.4が改訂趣旨、pp.80–82がビジネスアーキテクト類型の3ロール、pp.110–114がデータマネジメントのロールと責務、pp.143–144がデザインマネジメントの整理。表紙を含めた閲覧ソフトのページ番号は、それぞれ1ページ後です。
- IPA:DX推進スキル標準の概要 — 6類型の役割と標準の構成。
表と営業改革の業務例は、IPAの資料を基に当サイトが編集・作成しています。アイキャッチはAIで生成しています。
本記事の文章・表・図解・グラフは、Skill Business Architecture Labが独自に編集・作成しています。引用・紹介する場合は、引用箇所が分かる形で、記事名・サイト名・記事URLをご記載ください。


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