2025年のCompTIAの調査によると、組織の59%が過去1年間にサイバーセキュリティインシデントによる深刻または中程度の影響を報告しています。
セキュリティへの投資が急務とされる中で、「CompTIA Security+」という資格名を目にしたことがある経営者・人事担当者は少なくないかもしれません。ただし「コンプティア セキュリティ プラス」と読むこと、米国発の国際資格であることを知っている人は、IT業界にいても多くはないのが実態です。
なぜか。日本のIT資格文化はIPAの情報処理技術者試験を中心に形成されており、海外発の民間資格は「知っている人だけ知っている」状態が続いています。CompTIA Security+も例外ではなく、米国では国防総省が取得を義務付けるほど地位が確立された資格でありながら、日本での認知度はまだ限定的です。
この記事では、CompTIA Security+が何者かを整理した上で、会社のセキュリティ力を高めるために本当に必要な資格かどうかを、登録セキスペとの比較も交えて解説します。
この記事でわかること
- CompTIA Security+の読み方・認定機関・基本情報
- なぜ日本での知名度が低いのか
- CompTIAのラダー構造(A+→Network+→Security+)
- 誰に取らせると会社のセキュリティ力が上がるか
- 登録セキスペとの役割・コスト・制度連動の違い
CompTIA Security+とは何か|読み方と基本情報
読み方と認定機関
「CompTIA Security+」は「コンプティア セキュリティ プラス」と読みます。CompTIAは米国シカゴに拠点を置く非営利のIT業界団体で、ベンダーニュートラル(特定メーカーに依存しない)なIT資格を多数認定しています。
Security+はCompTIAが認定するサイバーセキュリティ資格の中核に位置し、世界で50万人以上が取得している国際資格です。
試験の基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 受験料 | 約46,000〜55,000円(税込・為替により変動) |
| 登録費 | なし(受験料に含まれる) |
| 試験時間 | 90分・最大90問 |
| 合格ライン | 900点満点中750点 |
| 試験言語 | 日本語・英語(選択可) |
| 有効期限 | 3年 |
| 維持費(3年間) | 150ドル(CEプログラム利用の場合)または再受験費用 |
| 受験資格 | なし(推奨:セキュリティ重点のIT管理2年以上) |
※受験料・維持費は為替レートや改定により変動します。最新情報はCompTIA公式サイトでご確認ください。
試験は知識問題だけでなく、仮想環境でのトラブルシューティングを行うパフォーマンスベーステストも含まれており、実務に近いスキルが問われます。日本語で受験できますが、翻訳の表現に癖があると言われており、英語が得意な受験者は英語で受験するケースもあります。
米国での位置づけ
米国では国防総省指令8140.03-Mにより承認されており、政府機関の情報保証を担う人材に取得が義務付けられている資格の一つです。ISO 17024規格にも準拠しており、国際的な信頼性の高さが証明されています。
CompTIA Security+の知名度が日本で低い理由
IT業界に長くいても「見覚えがある程度」という声があるほど、CompTIA Security+の日本での認知度は限定的です。その理由は日本特有のIT資格文化にあります。
日本ではIPAが実施する情報処理技術者試験が国家資格として長年定着しており、基本情報技術者・応用情報技術者・情報処理安全確保支援士というIPAのラダーが「正規ルート」として認知されています。海外発の民間資格は採用要件や入札要件に組み込まれることが少なく、「知っている人だけ知っている」状態が続いています。
また「CompTIA」という表記自体が初見では読めないため、記憶に残りにくいという側面もあります。
ただし知名度が低いことと資格の価値は別の話です。米国で国防総省が取得を義務付けている資格が、日本の中小企業に無関係であるとは言えません。
CompTIAのラダー構造|Security+の前後にある資格
CompTIA Security+は単独で存在する資格ではなく、CompTIAが設計したラダー構造の中に位置しています。
CompTIA A+
IT全般の基礎知識。ハードウェア・ソフトウェア・ネットワークの基礎を体系的に学ぶ
↓
CompTIA Network+
ネットワークセキュリティスキル。サイバーセキュリティの専門分野を確立する際に役立つ
↓
CompTIA Security+ ←この記事の対象
セキュリティ実務。技術実装・運用・インシデント対応の基礎を体系化する
↓
CISSP・登録セキスペ・CompTIA CySA+など
上位・管理系・専門特化
CompTIA Security+には公式の前提条件はありません。ただしA+・Network+で基礎を固めてから取得する方が学習効率が上がります。特に社内で技術担当者を育成する場合、このラダーに沿ったキャリア設計をすることで、段階的にセキュリティ人材を育てることができます。
会社のセキュリティ力を高めるために必要か|キャリアプランで決まる
CompTIA Security+が「会社のセキュリティ力を高めるために必要か」という問いへの答えは、誰のキャリアプランに取らせるかで変わります。役職名ではなく、その人を将来どういうポジションに育てたいかというキャリアプランが判断の起点です。
取らせると効果がある場面
技術担当者・エンジニア部門長候補に取らせると効果が出やすい資格です。CompTIA Security+が測るのは「セキュリティをどう技術的に実装し・運用し・インシデントに対応するか」という実務スキルです。現場で手を動かすエンジニアが取ることで、日常業務のセキュリティ判断の精度が上がります。
また情報処理安全確保支援士(登録セキスペ)が管理・ガバナンス寄りの視点を問う資格であるのに対して、CompTIA Security+は技術実装・運用寄りです。現場のエンジニアから「登録セキスペは実務と乖離している」という声が出やすいのは、この性格の違いによるものです。CompTIA Security+は現場に歓迎されやすい資格と言えます。
取らせても効果が薄い場面
対外的な制度対応が目的の場合は、CompTIA Security+よりも登録セキスペが機能します。経産省の補助金要件・★制度・将来の必置化検討はいずれも登録セキスペを対象としており、CompTIA Security+は日本の制度との連動がありません。「取引先からのセキュリティ調査への対応」「補助金申請の要件クリア」という目的であれば、登録セキスペを優先すべきです。
非IT人材・管理部門の全社的な啓発が目的であれば、情報セキュリティマネジメント試験の方が適しています。CompTIA Security+は技術的な内容を含むため、非エンジニアには負荷が高くなります。
登録セキスペとCompTIA Security+の比較
| 項目 | 登録セキスペ | CompTIA Security+ |
|---|---|---|
| 視点 | 管理・ガバナンス寄り | 技術実装・運用寄り |
| 難易度 | 高い(合格率20%前後) | 中程度(勉強時間1〜3ヶ月) |
| 受験料 | 7,500円 | 約46,000〜55,000円(税込・変動あり) |
| 登録費 | 約20,000円(登録手数料+登録免許税) | なし |
| 取得時トータル | 約27,500円 | 約46,000〜55,000円 |
| 維持費(3年間) | 約14万円(みなし制度で約6万円も可) | 150ドル(CEプログラム)または再受験費用 |
| 日本の制度連動 | あり(補助金・★制度・必置化) | なし |
| 国内認知度 | 高い | 限定的 |
| 現場の歓迎度 | 「実務と乖離」という声がある | 実務に近く歓迎されやすい |
| 向いているキャリアプラン | セキュリティ管理職・部門長候補 | 技術担当者・エンジニア部門長候補 |
取得時のトータルコストだけ見ると登録セキスペの方が大幅に低くなりますが、3年間の維持費を含めると差が縮まる可能性があります。ただし維持費は為替レートや更新方法によって変動するため、最新情報はCompTIA公式サイトでご確認ください。
CISMとCISSPの違いでも整理していますが、セキュリティ資格は役割設計によって選ぶべきものであり、コストだけで判断すると機能しない資格を取らせることになりかねません。
まとめ|資格を選ぶ前にキャリアプランを決める
CompTIA Security+は、技術担当者・エンジニア部門長候補のキャリアプランとして取らせると、会社のセキュリティ力を高めるために有効な資格です。日本での知名度はまだ限定的ですが、実務に近い技術スキルを体系化できる点・現場に歓迎されやすい点は、経営・人事が資格選定をする際の材料になります。
一方で、補助金要件・★制度・必置化への対応という制度連動を目的とするなら登録セキスペが先です。全社的な啓発が目的なら情報セキュリティマネジメント試験が適しています。
問うべきは「CompTIA Security+は必要か」ではないかもしれません。「この社員を3年後にどういうセキュリティ人材として育てたいか」というキャリアプランを先に決めることで、取らせるべき資格は自然に決まります。
資格が先ではなく、キャリアプランが先です。


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