DX担当者の社内育成方法|育成より先に問うべきBPRの土台

DX担当者の社内育成方法を整理します。育成計画・スキル定義という通説に加え、DXはBPRの一環であるという視点から、育成より先に必要な組織の土台を解説します。 DX

なぜ、DX担当者を育成するのでしょうか。

DXを推進するために専門の人材が必要だから、という答えは自然に聞こえます。 しかしその前に、問い直す余地があるかもしれません。

DXの目的は、変化の激しいビジネス環境に対応し、持続的な競争優位を確保することです。 その手段がデジタルである場合に、DXと呼ばれています。

つまりDXは、業務プロセスを抜本的に再設計するBPR(Business Process Reengineering)の一環として位置づけられます。 BPRの手段としてデジタルが選ばれるとき、それがDXです。

この順序が逆になるとき、何が起きるでしょうか。

本記事では、DX担当者育成という問いを立て直し、組織として先に整えるべき土台を整理します。

この記事でわかること

  • DXとBPRの関係と、育成の順序を問い直す視点
  • DX担当者を育成しても機能しない構造が生まれる理由
  • BPRを回せない組織がDXを進めたときに何が起きるか
  • 本当に必要な育成は何か

DX担当者の社内育成方法として語られる通説とその前提

DX人材育成の一般的なアプローチ

DX担当者を社内で育成する方法として、多くの解説は以下のステップを紹介しています。

理想とする人材像を定義し、現状とのギャップを特定する。育成計画を設計し、対象者を選定する。社内研修・社外セミナー・eラーニングを組み合わせて教育プログラムを実施する。成果を評価してPDCAを回す。

必要なスキルとして挙げられるのは、AIやデータ分析などのテクニカルスキル、業務プロセス変革の知識、経営層と現場をつなぐマネジメント力です。

この手順自体は整理されています。

ただし、この手順が機能するための前提があります。 「DX担当者を育成する必要がある組織である」という前提です。

DX担当者育成が前提とするものを問い直す

DX担当者の育成に取り組む前に、確認できることがあります。

会社の課題を抽出し、ソリューションを構築できる人材が、すでに社内にいるかどうかという問いです。

もしそのような人材がいるなら、DX担当者をあえて育成する必要はないかもしれません。 その人材のソリューション選択肢にデジタルが上がってこない場合は、ITリテラシーを高める育成を加えるだけで十分な場合があります。

DX担当者の育成が必要かどうかは、この確認の後に判断できることかもしれません。


DXとBPRの関係|DX担当者育成より先にある問い

BPRとDXはどう違うのか

BPR(Business Process Reengineering)とは、業務プロセスを抜本的に見直し、再設計することです。 既存の業務の延長ではなく、目的から逆算して業務の仕組みそのものを変えるというアプローチです。

DXはこのBPRの手段の一つとして位置づけられます。 課題を定義し、解決策を検討した結果、デジタル技術が最も有効であると判断されたときにDXが選ばれます。

この順序で考えると、DXより先にBPRがあります。 BPRを回す力がない組織が、手段としてのDXを有効に活用できるかどうかは、慎重に考える余地があるかもしれません。

BPRを回せない組織でDXを進めたとき何が起きるか

BPRの土台がない組織でDXを進めようとするとき、起きやすい流れがあります。

DX推進をしたい。DX人材を採用・育成する。DXを推進する。しかしデジタルな手法を取る必要が本来なかった課題にDXを適用してしまう。持続的な競争優位性につながらない。必要のないDXを進めたことで組織に歪みが生まれる。

この流れの根底にあるのは、課題の定義が曖昧なままDXというソリューションが先行したことです。

売上45億円規模・社員60名程度のサービス業で、「DXで生産性を向上させたい」という経営方針のもと、DX担当者を育成してシステムを導入したとします。 しかし元々の課題が「部門間の情報共有の断絶」であり、それはデジタルではなく会議体の設計変更で解決できるものだったとき、DXへの投資は課題解決に直結しない可能性があります。

デジタル化された非効率が生まれる、という状態です。

BPRができない組織の特徴

BPRを回せていない組織には、いくつかの共通した状態が見られることがあります。

課題が「なんとなく」しか定義されていない。問題は感じているが、何が根本原因かが言語化されていない。

部門をまたぐ意思決定ができない。各部門が自部門の最適を優先するため、全社視点での業務再設計が進まない。

施策が部門最適で終わる。改善が特定の部署の効率化にとどまり、会社全体のKGIに接続されない。

この状態の組織がDX担当者を育成しても、デジタルの手法を使って部門最適のシステムを作ることになりやすくなります。 DXが進んでいるように見えて、持続的な競争優位性の構築からは遠ざかっていく可能性があります。 詳しくは中小企業のDXが失敗する理由|人材不足より先に見直すべき意思決定構造の問題でも整理しています。


DX担当者育成より先に必要な組織の土台

BPRを回す力を先に育てる

DX担当者の育成より先に整えるべきことがあるとすれば、BPRを回す力を組織として持つことかもしれません。

BPRを回す力とは、大きく二つです。

一つ目は、課題抽出力です。「何が問題か」を現状から正確に定義できる力です。症状ではなく根本原因を特定し、解決すべき課題として言語化できるかどうかです。

二つ目は、ソリューション設計力です。定義した課題に対して、解決策の選択肢を複数検討し、最適なものを選べる力です。この選択肢の中にデジタルが自然に含まれるとき、DXは有効な手段になります。

この二つが組織に根付いているとき、DX担当者という特別な役職がなくても、必要な場面でデジタルが活用されるようになるかもしれません。

部門横断プロジェクトを推進できる人材を育てる

BPRの多くは、部門をまたぐ取り組みを必要とします。 特定の部署だけで完結できる課題は、BPRを必要とするほど根深いものではないことが多いからです。

部門横断プロジェクトを推進できる人材とは、複数の部門の利害を調整しながら全社視点で物事を進められる人材です。 技術的な知識よりも、各部門の論理を理解した上で共通の目的に向かって動かす力が求められます。

この力を持つ人材が組織にいるとき、DXが必要な場面ではDXを手段として使いながら、全社のKGIに向かった推進ができるようになります。

BPRを回せる組織、部門横断で推進できる人材。この土台が整った上で、ITリテラシーを上乗せするときにDX担当者の育成は意味を持つかもしれません。

DX推進体制の設計についてはDX推進体制の作り方|中小企業で機能する体制は役職より機能配置で決まるでも整理しています。

DX担当者育成が必要になる条件

ここまでの整理を踏まえると、DX担当者の育成が意味を持つ条件が見えてきます。

BPRを回す力が組織にある。部門横断で推進できる人材がいる。そのソリューション選択肢にデジタルが上がってこない、またはデジタルの実装力が不足している。

この条件が揃ったとき、ITリテラシーやデジタル技術の習得を目的とした育成が機能します。

逆に、BPRの土台がない状態でDX担当者だけを育成しても、デジタルを使って何をすべきかの判断ができないまま、ツールの習得に終わる可能性があります。


まとめ|DX担当者育成より先に確認すべき問い

DX推進のために専門人材が必要だという認識は、組織によっては正しくないかもしれません。

会社の課題を定義し、ソリューションを設計し、部門横断で推進できる人材がいるなら、その人材のITリテラシーを高めるだけで十分な場合があります。 その土台がない場合は、DX担当者の育成より先に、BPRを回せる組織づくりから始める余地があるかもしれません。

「DX担当者を育成すれば、DXが進む」という期待が生まれるとき、その前に一度確認できることがあります。

「今の組織は、デジタルを使わない方法での課題解決を、すでにうまく回せているか」

この問いに答えにくさを感じるとき、育成の対象と順序を見直す余地があるかもしれません。 その問いを持つところから、DX担当者育成の本来の意味が見えてくることがあります。

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